注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
疣贅の大きさは感染性心内膜炎の手術適応を判断する上でどのように有用なのか
感染性心内膜炎(IE)の手術の適応は明確な規準は決まっておらず総合的に判断するが、疣贅の大きさが10mm以上のときには適応になることが多い。疣贅の大きさがどのような根拠で、どの程度判断材料となるのか調べてみた。
Marina Leitmanらの研究では1998年から2010年までにAssaf Harofeh Medical CenterでIEと診断された146名のうち、正確に疣贅の大きさを測定できた102名のデータを集めて解析した。その結果、60歳以上で10mm以上の疣贅がある群は死亡リスクが高くなっていた(38%, P<0.05)。しかしもっとも高い死亡リスクは病原微生物がMRSAであることだった(45%, P<0.01)。また10mmの疣贅がある群は膿瘍が優位に見られた(17%, P<0.001)。
また、Franck Thunyらは欧州の複数の施設のIEの患者384名の前向きコホート研究を行い、臨床症状、病原微生物、心エコーの所見が塞栓症、1年死亡率の予測因子となるかを調べた。単一変数解析では、治療介入後新規に塞栓症を発症した群としていない群を比較すると疣贅の大きさは15.5mm[range, 0 to 40] versus 9mm[range, 0 to 50] (P<0.001)となり、疣贅の大きさは予後予測因子であるといえる。また、疣贅の大きさが10mm以上と以下の場合で比較すると塞栓症を起こした頻度は13.7%[26/190] versus 1%[2/194](P<0.001
)となり10mm以上では明らかに塞栓症を起こしやすい。
以上よりある一定以上の大きさの疣贅では、塞栓症を含む合併症のリスクが上昇することは明らかであるといえる。しかし、疣贅の大きさごとにIEの外科的治療と抗菌薬のみでの治療とを比較するようなstudyは調べた範囲では見つからなかった。手術療法を行うと予後が良いという直接的なデータはなく、早期に手術介入を行えば、塞栓のリスクを減らせるという理論的な根拠のみに基づいている。手術の適応は疣贅の大きさのみで判断せず、その他の要因も考慮するのがベターではないだろうか。
参考文献
Marina Leitman, Vegetation size in patient with infective endocarditis: European heart journal – Cardiovascular imaging (2012)13,330-338
Franck Thuny, Risk of embolism and death in infective endocarditis: Prognostic value of echocardiography: J Am Coll Cardiol (2002)9:1489–95.
寸評:このレポートを書いたあとで、重要な論文が見つかったそうですね。5時間ルールをフェアに護ったのは立派です。それでいいんですよ。
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