注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MSSAとMRSA互いに変異しうるのか
私は、MRSAとMSSAは互いに変異しうるのかということについて調べた。私がこのテーマを選んだ理由は、私の担当患者が黄色ブドウ球菌菌血症であり、黄色ブドウ球菌について以前から、MSSAがMRSAに変異することや、その逆は起こりうるのか疑問に思っていたからである。
まずMRSAの薬剤耐性機序について述べる。MRSAのメチシリン耐性を担うものはmecA遺伝子である。mecAはPBP2aをコードしている。そしてこのPBP2aを獲得したMRSAはβラクタムに対する親和性が弱いために、βラクタム耐性となる。1)
よってMRSAとMSSAの相互変異には、mecAが関与すると考える。mecA遺伝子はSCCmec(Staphylococcal cassette chromosome mec)と呼ばれるDNAカセットに含まれ、このSCCmecの染色体への挿入、脱落に関与する遺伝子がSCCmec上に存在するccr(cassette chromosome recombinase)遺伝子である。理論上は、このccr遺伝子がMSSAに対して、SCCmecを挿入する役割として働けばMRSAに変異し、ccr遺伝子がMRSAに対して、SCCmecを脱落させる役割として働けばMSSAに変異する。ここでccr遺伝を含むように生成したプラスミドを用いた実験によると、SCCmecを脱落させるよりも、SCCmecを挿入させる頻度の方が多いことがわかっている。2)しかし、SCCmec自体の菌同士間での伝達ははっきり証明されていない。3)
以上のことから、MRSAとMSSAが互いに変異することは理論上ありえないことではなく、そのような機序は現在解明されつつあるが、in vitroで実際に証明できたことがなく、起こりうるとは言えない。
参考文献
- 小松澤 均,菅井基行:MRSAの薬剤耐性のメカニズム
2) A Plasmid-Borne System To Assess the Excision and Integration of Staphylococcal Cassette Chromosome mec Mediated by CcrA and CcrB :Lei Wang,a Mostafa H. Ahmed,b Martin K. Safo,b and Gordon L. Archercorresponding authora : J Bacteriol. 2015 Sep; 197(17): 2754–2761.
3) James H. Jorgensen,Michael A. Pfaller: Manual of Clinical Microbiology 11 edition :ASM Press; April 30, 2015 :pp,1222
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。