注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腎移植後の患者において、PCPの予防のためには
ST合剤をどれだけの期間内服するのが適切か
ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirovecii pneumonia : PCP)は、日和見感染症の一種であり、予防が行われなかった場合、実質臓器(腎も含まれる)の移植を受けた患者の約5-15%に発症する。1)腎移植を受けた患者においては、PCPが発症すると29%から50%と高い死亡率を示す。2)
PCPの予防において、ST合剤は最も効果的な薬であり、ST合剤SS錠((single strength)T 80mg S 400mg)またはDS錠((Double strength)T 160mg S 800mg)を1日1回経口投与が第一選択とされている。3)しかし、腎移植を受けた患者に対してその推奨投与期間はガイドラインによってさまざまである。
ヨーロッパ腎移植ガイドラインでは少なくとも移植後4ヶ月以上の投与が推奨されている一方、アメリカ移植学会は移植後6〜12ヵ月の投与を推奨している。KDIGO(The Kidney Disease Improving Global Outcomes)のガイドラインでは移植後3〜6ヶ月の投与が推奨されている。これらのガイドラインはPCPの発症リスクは臓器移植後6ヶ月後に最も高いという事実に基づいている。4)日本臨床腎移植学会のガイドラインには、PCPについて触れた記載はない。
ほとんどの腎移植後の患者はその後免疫抑制療法を受け続けなければならないので、もっと長期の、あるいは生涯通じてPCP予防のためのST合剤の内服を勧める専門家もいる。5)
これに対してS.Anandらは2011年に、2003年から2009年にかけてUniversity of Michigan Health Systemで腎臓移植または膵腎移植を受けたのち、ST合剤を1ヶ月間服用した患者1352人のうち、PCPを発症したのはわずか4人だったと報告している。6)
この場合発症率は0.30%となり、最初に述べた予防が行われなかった場合の実質臓器の移植を受けた患者のPCP発症率と比べて非常に低い。しかし、この論文ではST合剤を長期間内服した場合との比較がなく、また論文が発表された2011年以降にそれらの患者で新たにPCPが発症する事も考えられる。
結論としては、やはりPCP予防のためのST合剤の内服推奨期間は、明確に定義する事はできない。しかし副作用などのために短期間しか内服ができない場合でも、PCPの予防効果がある可能性はあるだろう。このテーマについては、さらなる研究が望まれる。
- UpToDate: Fungal infections following lung transplantation
- HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 18th Edition Dan L. Longo, et al. 2011 p1673.
- Radisic M, Lattes R, Chapman JF, et al. Risk factors for Pneumocystis carinii pneumonia in kidney transplant recipients: a case-control study. Transpl Infect Dis 2003; 5:84.
- .N. Goto, S. Oka. Pneumocystis jirovecii pneumonia in kidney transplantation. Transpl Infect Dis 2011 : 13: 551–558
- KDIGO Clinical Practice Guideline for the Care of Kidney Transplant Recipients (2009)
- Anand, M. Samaniego, D.R. Kaul. Pneumocystis jirovecii pneumonia is rare in renal transplant recipients receiving only one month of prophylaxis. Transpl Infect Dis 2011: 13: 570–574
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