注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病は感染性心内膜炎の発症リスク因子か
感染性心内膜炎は的確な診断の下,適切な治療が奏功しなければ多くの合併症を引き起こし、ついには死に至る重篤な疾患である。感染性心内膜炎は多くの場合、何らかの基礎心疾患を有する患者が何らかの原因により菌血症を起こした際に発症する。しかし、基礎心疾患のない患者が発症することも多い。1)一方、糖尿病患者は一般に細菌、真菌、結核菌による感染症で受診、入院するリスクが高いことが知られている。特に血糖のコントロールが悪い患者では感染症が遷延し、重症化しやすい。2)私は、糖尿病が感染性心内膜炎の発症リスク因子であるのか調べた。
Brian L.らは感染性心内膜炎の発症リスク因子を調べるため、アメリカのフィラデルフィアとニューキャッスルの8地域、54の病院で1988年から1990年の間に感染性心内膜炎と診断された患者群273人と同数の健常人のコントロール群について基礎疾患などを比較調査した。結果、感染性心内膜炎の患者群では糖尿病の有病率が有意に高かった(18.7%v.s.10.6% OR=2.7 95%CI=1.4-5.2 p=0.004)。3)
Movamed MRらは糖尿病が感染性心内膜炎の発症リスク因子であるか調べるため、1990年から2000年の間にアメリカのVeterans Health Administration Hospitalsを受診した患者のうち、2型糖尿病と診断された患者群と、高血圧と診断されたコントロールの患者群の間で、感染性心内膜炎の発症率を比較した。2型糖尿病があり高血圧がないと診断された患者は約30万人、逆に2型糖尿病がなく、高血圧があると診断されたコントロール群の患者は約55万人いた。合計約85万人の患者について1990年から2000年の間に感染性心内膜炎の発症を追跡した。結果、2型糖尿病患者群の発症者は1340人、高血圧患者群の発症者は1412人であった。2型糖尿病はすでに感染性心内膜炎の発症リスクとして知られている腎不全、心臓弁の異常とは独立した発症リスクであるか多変量解析を用いて比較した結果、2型糖尿病は独立した発症リスク因子であった(0.3%v.s.0.5% OR=1.9 95%CI=1.8-2.2 p<0.001)。4)
以上より、糖尿病は感染性心内膜炎の発症リスク因子であることが分かった。糖尿病患者の原因不明の発熱を診察する際には、感染性心内膜炎をより積極的に疑うべきと考える。
参考文献
- 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)2007年度合同研究班
- 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013 日本糖尿病学会 南江堂
- Risk factors for infective endocarditis: oral hygiene and nondental exposures. Strom BL et al. Circulation. 2000
- Increased prevalence of infectious endocarditis in patients with type II diabetes mellitus. Movahed MR et al. J Diabetes Complications. 2007
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