注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工関節感染(Prosthetic joint infection, PJI)の再発予防に人工関節再置換術かDebridement, antibiotics, and implant retention (DAIR)のどちらが有効か?
初めて人工関節置換術を受けた患者の0.5%~1.9%に見られる人工関節感染(PJI)は重要な合併症であり、治療は大きく人工関節を温存したまま病巣を掻爬するdebridement, antibiotics, and implant retention (DAIR)と人工関節再置換術に分けられる1)。PJI治療のgold standardは再置換術とされているが、脳血管疾患、腎疾患や糖尿病などの合併症によって長時間の手術が危険になる例もあるため、再置換術に比べて低侵襲なDAIRで同等なPJIの再発予防効果があるか調べた1)、2)。
まず、MarcykescuらがDAIRの有効性を後ろ向きコホート研究で検討した結果、60%の患者が二年間再感染フリーであった3)。また、単変量解析では黄色ブドウ球菌感染(HR 5.14, 95%CI 2.36-11.2, p<0.001), 瘻孔形成(HR 2.85, 95%CI 1.50-5.44, p=0.002)や8日以上持続する症状(発熱や関節の疼痛、発赤や熱感)(HR 1.79, 95%CI 1.04-3.09, p=0.04)などの因子が再感染率の上昇と関連していた3)。また、Byrenらの後ろ向き研究ではDAIRが施行された患者の81%が2年間再感染フリーとMarcykescuらの報告よりも成績が優れていた4)。その一因として、Byrenらのstudyではリファンピシンと経口抗菌薬(シプロフロキサシン)の併用内服率が70%だったが、Marcykescuらのstudyではリファンピシンではなく、βラクタム系の抗菌薬のみ使用されていたことがあがる。また、抗菌薬内服中止後は再感染のリスクが4倍(HR 4.3, 95%CI 1.4-12.8, p=0.01)に上昇し、特に3ヶ月以内の内服中止 (HR7.0 95%CI 1.5-33, p=0.015)が再感染のリスク上昇と関連していた4)。
一方で人工関節再置換術の成績に関してはMortazaviらの後ろ向き研究で499例の再置換術で感染再発率を調べた結果、90.8%の患者が術後二年間再感染フリーであった5)。また、253例の再置換術を後ろ向きにMahmudらが解析した結果、85%の患者が術後五年間再感染フリーであった6)。
以上の再感染率の結果を見るとDAIRより人工関節再置換術のほうがPJIの再発予防に有効だと考えられる。しかし、DAIRでも約8割の患者を治癒に持ちこめる可能性があるため起因菌の種類、瘻孔の有無、症状出現の日数やリファンピシン服用に対する忍容性などの情報を元にDAIR適応を判断すれば手術が困難な患者では有効な治療法であると考えられる。
- Gehrke H et al. The management of an infected total knee arthroplasty. Bone Joint J 2015; 97:20-29.
- Memtsoudis SG et al. Risk factors for perioperative mortality after lower extremity arthroplasty: a population-based study of 6,901,324 patient discharges. The Journal of Arthroplasty. 2010; 25(1): 19-26.
- Marculescu CE et al. Outcome of prosthetic joint infections treated with debridement and retention of components. Clin Infect Dis. 2006; 42(4): 471-478.
4.Byren I et al. One hundred and twelve infected arthroplasties treated with ‘DAIR’ (debridement, antibiotics and implant retention): antibiotic duration and outcome. J Antimicrob Chemother. 2009; 63(6): 1264–1271.
- Mortazavi SM et al. Revision total knee arthroplasty infection: incidence and predictors. Clin Orthop Relat Res. 2010; 468(8): 2052-2059
- Mahmud T et al. Assessing the gold standard: a review of 253 two-stage revisions for infected TKA. Clin Orthop Relat Res. 2012; 470(10): 2730-2736.
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