注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
肥満患者にβラクタム系抗菌薬が投与される際、標準量に比べ多く投与されるべきか?
現在世界中で肥満人口が増加しているため、医師が診察に当たるうえで肥満は重要な課題となっている。その課題のひとつとして肥満患者に対する適切な抗菌薬の投与が挙げられる。特に過度の肥満(BMI≧40)の患者では薬物動態や薬力学において肥満でない人と異なっており、抗菌薬の吸収や排泄にも影響を与える1)。そこで肥満の患者では抗菌薬、特にβラクタム系抗菌薬を投与した際、分布容積や排泄における肥満でない人との違いに着目し、肥満患者の抗菌薬投与量について考察する。
過度の肥満の場合、脂肪組織が多いことや、抗菌薬のアルブミン結合を大きく変化させることはできずリポタンパクやα1酸糖タンパクとして体に残ることなどから、皮下注射により投与した薬剤の流れがうまくいかず、組織での吸収が悪くなる2)3)。また肥満による腎臓や肝臓の変化も抗菌薬に影響を与える。肝臓においては肝内の脂肪が血流の妨げとなり、薬物の代謝を遅らせる。腎臓における糸球体濾過量(GFR)は薬剤を腎臓から尿へと排泄する能力を見極める指標となるため、抗菌薬を投与する際正確な値が必要となる。しかし腎臓においては肥満の人はそうでない人に比べ、Cockcroft-Gaultの式で推定されるGFRと実際のGFRに過大評価、過小評価ともに開きがでるため、予測GFR値を鵜呑みにして抗菌薬を投与することは難しい4)。
ここからはβラクタム系抗菌薬に注目していくつかの報告をもとに実際の投与量について考えた。その中でもセフォチアムに関してK.Chibaらが相撲とりの被検者に対して行った研究を紹介がある。これは15人の相撲取り被検者(IBWの130%-220%)と10人のコントロール被検者(IBWの90%-102%)に対し2gのセフォチアムを30分以上かけて静注し、活動配置について調べた。排泄(CL:Clearance)と分布容積(Vd:volume of distribution)において対照群と比較して有意な差を認めた。(28.9~47.7 vs 17.5~29.5L/h、(P値 0.001未満)、 22.2~38.2vs11.8~24.0L/Kg(P値 0.001未満))5)。半減期は対照群より相撲取りがわずかに長かった。(0.77~10.05vs0.64~0.94h、P値 0.05未満)。だが滞留時間は、2つのグループの間で有意差を認めなかった。(0.69~0.89vs0.61~0.89h、P値不明)5)
現時点で明確な報告のない抗菌薬もあり、各種抗菌薬により相違点はあるが、上記の研究からセフォチアムに関しては半減期や滞留時間において肥満群と対照群であまり変化がみられなかったことから、過度の肥満患者の全て対し抗菌薬を標準量よりも多く投与する必要性は乏しく、標準量を治療開始時より投与し、効果がみられない場合は増量を考えるべきだ。しかし排泄が大きいことを加味すれば緊急性の高い重症例では確実に効果が得られるように治療開始時より標準量よりも多く投与することを検討すべきである。
(参考文献)
- Polso AK1, Lassiter JL, Nagel JL. J Clin Pharm Ther.2014Impact of hospital guideline for weight-based antimicrobial dosing in morbidly obese adults and comprehensive literature review.
- Jain R, Chung SM, Jain L.Clin Phaermacol ther,2011.Implications of obesity for drug therapy: limitations and challenges
- Hanley MJ, Abernethy DR, Greenblatt DJ.Clin Pharmacokinet,2010Effect of obesity on the pharmacokinetics of drugs in humans
- Schwartz SN, Pazin GJ, Lyon JA, Ho M, Pasculle AW.J Infect Dis,1978A controlled investigation of the pharmacokinetics of gentamicin and tobramycin in obese subjects
5.Chiba K, Tsuchiya M, Kato J, Ochi K, Kawa Z, Ishizaki T Antimicrob Agents Chemother, 1989
Cefotiam disposition in markedly obese athlete patients, Japanese sumo wrestlers
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