注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
壊死性筋膜炎と他の軟部組織感染症の鑑別に対して症候や身体所見は有効か
壊死性筋膜炎(以後NF)は皮下脂肪組織と固有筋膜の間の浅筋膜を炎症の場とする急速進行性の壊死性病変で、入院からデブリドマンが24時間以上遅れると有意に生存率が低下するため早期の診断と積極的なデブリドマンが推奨される[1]。早期NFは蜂窩織炎との鑑別が困難な一方、数時間の遅れが致死的なNFは疑ったと同時に処置を開始することが望ましい。それ故、その鑑別に対する症候や身体所見の有効性を調べた。
NF患者198人にて腫脹75%、疼痛73%、紅斑66%、悪臭を伴う滲出液47%、皮下気腫に伴う握雪感37%、発熱32%、皮膚壊死31%、水疱24%、皮膚色調変化18%、意識障害18%、低血圧11%が認められた。なお、評価の助けとなるとされる画像所見のX線ガス像は57%に認められ[2]、特異度が高いものの感度はそこまで高くなく必ずしも認められる訳ではなかった[3]。
更に、他の研究のNF患者31人と非NF患者328人に見られた症状はそれぞれ、低血圧が7%と1%、緊満性浮腫が23%と3%、水疱が16%と3%、紫斑が10%と1%、神経障害が13%と3%、皮膚壊死が6%と2%[3]であったことから、NF以外の軟部組織感染症でこれらの症候・身体所見が認められることは稀で、これらが認められた場合NFを強く疑う。なお、X線ガス像は32%と3%に認められ、比較的有名な所見である握雪感は両群ともに認められなかった。
また、発症して間もないNFでは筋膜だけが侵されていて腫脹や紅斑などの皮膚所見は一見認められないにも拘らず、それに見合わない激しい疼痛を訴える進行の速い軟部組織感染症では画像所見が得られていなくてもNFを強く疑わなければならない。[4]
以上より、NFと他の軟部組織感染症の鑑別で迷った際、症候や身体所見のみによる確定診断は難しい。しかし、皮膚所見に見合わない激しい疼痛を訴え、低血圧や発熱、意識障害など全身状態が悪い場合はNFを強く疑い、画像所見の有無にかかわらず外科や皮膚科への迅速なコンサルトや採取組織の術中迅速病理診断による確定診断を行うべきである。
参考文献
[1] Wong CH, Chang HC, Pasupathy S, Khin LW, Tan JL, Low CO Necrotizing fasciitis: clinical presentation, microbiology, and determinants of mortality. J Bone Joint Surg Am. 2003;85-A(8):1454.
[2]Elliott DC,Kufera JA,Myers RA. Necrotizing soft tissue infections. Risk factors for mortality and strategies for management.Ann Surg 1996 Nov;224(5):672-83.
[3] Wall DB,Klein SR,Black S,de Virgilio C. A simple model to help distinguish necrotizing fasciitis from nonnecrotizing soft tissue infection.J AmColl Surg. 2000 Sep;191(3):227-31.
[4]Dennis L Stevens,Larry M Baddour. Necrotizing soft tissue infections. UpToDate. This topic last updated : Dec 11, 2014.
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