注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Candida parapsilosisは他のCandidaより真菌血症を起こしやすいのはなぜか?
Candida parapsilosisの真菌血症患者を担当した際の情報収集で、血液培養から検出されたCandidaのうちC. parapsilosisが占める割合は血液以外の検体の報告と比較して高く、Candidaの中ではC. albicansに次いで第2位(約16%)を占めることを発見した1。C. parapsilosisが他のCandida属の真菌と比較して特に真菌血症を生じやすいとすれば、その理由は何か疑問に思い文献より調べてみた。
一般にCandidaが真菌血症を発症するまでには、定着、バイオフィルム形成、侵入という過程を経ることとなる。まずC. parapsilosisがヒトの皮膚に常在している頻度が高いことが影響している可能性がある。保菌と病原性の関連は十分に解明されてはいないが、C. parapsilosisはCandidaの中でヒトの手より最も多く検出される種であり2,3、院内発症のC. parapsilosisアウトブレイクの検討で医療ケア従事者の保菌する株と検出された株の分子タイピングで類似性が見られた報告4,5が散見されることなどから、特に院内などケアを受ける機会が多い状況では保菌者を介した感染のリスクが高まるものと推測される。
バイオフィルム形成に関しては、Candidaの中でも種と環境によりバイオフィルム形成能が異なるという報告があり、特にC. parapsilosisは糖や脂質の濃度が高い条件下でバイオフィルムを形成しやすいとされる6。もとより中心静脈栄養は真菌血症のリスクであるが、特にC. parapsilosisにとっては発育しやすい条件と考えられる。
さらに定着した菌が侵入する際に働く加水分解酵素の影響も想定されている。Candidaの中でも種により異なる加水分解酵素を発現させること、血液培養から検出された株と皮膚から検出された株で酵素の活性化の度合いが異なること7,8、酵素を阻害することで組織傷害性が低下すること9などが判明している。しかし現時点では病原性に果たす役割などについては未解明の点も多い。
感染成立に関する微生物学的、生化学的な研究が進めば新たな真菌血症の治療薬開発や予防策が発展することも期待されるが、現時点では環境、手指衛生を徹底すること、不要な中心静脈カテーテルの抜去などによりC. parapsilosisによる真菌血症を減らしたいと考えた。
<参考文献>
- Clin Microbiol Rev. 2008 Oct;21(4):606-25.
- J Clin Microbiol. 2006 May;44(5):1681-5.
- Infect Control Hosp Epidemiol. 2007 May;28(5):570-6.
- Mycopathologia. 2007 Dec;164(6):287-93.
- Diagn Microbiol Infect Dis. 1998 Apr;30(4):243-9.
- Curr Genet. 2009 Oct;55(5):497-509.
- J Infect Dis. 1995 Apr;171(4):967-75.
- Mycoses. 2005 Sep;48(5):321-6.
- J Clin Invest. 2007 Oct;117(10):3049-58.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。