注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
中心静脈カテーテルの挿入部位と合併症の発症頻度について
中心静脈カテーテル(central venous catheter : CVC)は、感染症、血栓症を始めとした様々な合併症を生じうる。感染症の中でも、カテーテル関連血流感染症(catheter related bloodstream infection : CRBSI)は、入院期間や死亡率、医療コストに大きな影響を与えるとされる(1)。また、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)は、塞栓症を起こすリスクになる。CVCは、鎖骨下静脈や内頸静脈、大腿静脈に挿入されることが多い。挿入部位は、術者の技術、患者の解剖学的特性、位置に関連するリスク、カテーテルの使用目的などに基づいて選択される(2)が、挿入部位の違いが合併症にどの程度影響するのかについて、今回調べてみることにした。
Parientiらは、CVC挿入部位による合併症頻度を調べる大規模RCTを行った(3)。ICUに入室した成人患者3027人に対して、CVC挿入部位を鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈の3ヶ所に無作為に割り付けた。主要評価項目は、CRBSIとDVTの発症件数を合わせたものとした。合計3471件のカテーテル挿入が行われ、そのうち鎖骨下静脈が1016件、内頸静脈1284件、大腿静脈1171件だった。CRBSIは、それぞれ鎖骨下静脈群で4件(0.5%)、内頸静脈群で12件(1.4%)、大腿静脈群で10件(1.2%)生じた。DVTは、鎖骨下静脈群で4件(0.5%)、内頸静脈群で8件(0.9%)、大腿静脈群で12件(1.4%)生じた。これらを合わせた合併症頻度を、1000カテーテル、日ごとの件数に換算すると、鎖骨下静脈で1.5、内頸静脈で3.6、大腿静脈で4.6だった(P=0.02)。それぞれの群での比較では、大腿静脈群は鎖骨下静脈群より有意にリスクが高く(HR, 3.5;95% CI, 1.5~7.8; P=0.003)、内頸静脈群も鎖骨下静脈群より高リスクを示した(HR, 2.1; 95% CI, 1.0~4.3; P=0.04)。一方、大腿静脈群と内頸静脈群では、これらの合併症のリスクはほぼ同等であった(HR,1.3; 95% CI, 0.8~2.1; P=0.30)。その他の合併症(CTCAE version 4.0でgrade3以上)は、鎖骨下静脈群で18件(2.1%)、内頸静脈群で12件(1.4%)、大腿静脈群で6件(0.7%)生じた。それぞれの群での比較では、大腿静脈群は鎖骨下静脈群より有意にリスクが低く(HR, 0.3;95% CI, 0.1~0.8; P=0.03)、内頸静脈群も鎖骨下静脈群より低リスクを示した(HR, 0.5; 95% CI, 0.3~1.1; P=0.09)。一方、大腿静脈群と内頸静脈群では有意差は認められなかった(HR, 0.5; 95% CI, 0.2~1.4; P=0.19)。
以上より、鎖骨下静脈は、内頸静脈および大腿静脈と比べて、CRBSIおよびDVTの発症頻度を下げるが、その他の合併症の発症頻度を上げるといえる。よって、感染症および血栓症のリスクが高い患者では、他の合併症のリスクを有さない限り、鎖骨下静脈がCVC挿入部位の第一選択になりうると考える。
(1) 青木眞, レジデントのための感染症マニュアル, 第3版, 医学書院, 2015年3月, pp.665-666.
(2) Up to date : Overview of central venous access. (Accessed on December 17, 2015.) .
(3) Parienti JJ et al. Intravascular Complications of Central Venous Catheterization by Insertion Site. N Engl J Med. 2015 Sep 24;373(13):1220-9.
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