注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症BSLレポート
細菌性の肝膿瘍に対してカテーテルドレナージと穿刺吸引のどちらが有用か
細菌性の肝膿瘍に対してはエンピリカルに抗菌薬を静注するとともに基本的には何らかのドレナージを行うことが一般的である。経皮的ドレナージであるカテーテルドレナージと穿刺吸引のどちらがより治療効果が高いかを調べた。
Yuらによって行われた超音波ガイド下による経皮的カテーテルドレナージと穿刺吸引法の前向きランダム化比較試験では、各32名の患者で比較を行った。治療成功率(カテーテル:穿刺吸引30人:27人 p=0.426)、それぞれの群で一人ずつ外科的ドレナージを再試行、死亡率(1人:4人 p=0.355)となり、ドレナージと穿刺吸引の治療成績に有意差はみられなかった。なお治療成功は手術を必要としないぐらいのドレナージができたことと定義されていた。(1)
Zeremらによって行われた超音波ガイド下による経皮的カテーテルドレナージと穿刺吸引法のランダム化比較試験では、各30名の患者で比較を行った。腫瘍径の関係ない治療成功率はカテーテル:穿刺=100%:67%(p<0.001)であったが50mm以下の膿瘍ではともに100%であり、同等の効果がえられた。また、肝膿瘍の個数別に検討すると穿刺吸引群は多発膿瘍の患者5人中5人の治療に失敗した。以上よりカテーテルのほうが有用という結果になった。多発膿瘍の治療にはカテーテル留置がよいと述べているものの、穿刺吸引で失敗した症例の考察はなかった。治療成功は肝膿瘍の直径が治療前の50%以下になったことと臨床症状の鎮静化と定義されており、3回目の穿刺吸引で反応がなかった場合は治療不成功とした。(2)
二つの研究の治療成功率に差が出た理由としては、Yuらの研究は穿刺吸引の回数に制限を設けていないのに対して、Zeremらの研究では3回目に反応がない場合は治療を失敗としていることが考えられる。そして、多発膿瘍の症例で穿刺吸引群の治療効果が不良であった理由としては、多発膿瘍では長期的なドレナージが必要な膿瘍が多かった可能性が考えられる。
サンプル数の少なさゆえどちらが有効かを確定することは困難であるため、より大規模なスタディがなされることが望ましいが、現時点ではカテーテルドレナージを留置することが適切と考えられる。
参考文献
1)Treatment of Pyogenic Liver Abscess:Prospective Randomized Comparison of Catheter Drainage and Needle Aspiration Simon C.H. Yu et al. HEPATOLOGY 2004;39:932-938
2)Sonographically Guided Percutaneous Catheter Drainage Versus Needle Aspiration in the Management of Pyogenic Liver Abscess Enver Zerem , Amir Hadzic AJR:189,September 2007
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