注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
脳膿瘍と脳腫瘍の鑑別にMRIの通常撮影以外の方法は有用か
脳膿瘍は限局性の脳実質の化膿性炎症で、病原体が脳実質内に進入し脳組織を破壊して形成される。症状としては発熱、頭痛、神経学的局所所見などがあり、鑑別すべき疾患としては原発性、転移性脳腫瘍がある1)。これらを鑑別し診断するうえで、MRIが重要な検査となる。脳膿瘍の画像所見として、造影MRIで被膜がリング状増強効果を示すことが有名である。また、中心壊死部がCTで低吸収、MRIのT1強調像では低信号、でT2強調像では高信号を示す。しかし、中心壊死をともなうのう胞性の脳腫瘍は同様の所見を示し、これらの鑑別が困難となることがある2)。この鑑別にMRIの通常撮影(T1強調像、T2強調像)以外の方法がどれほど有用なのかを考察していく。
X.X. Xuら3)は、1995年から2013年に行われた、14件の頭蓋内にリング状増強効果を示す病変に対してのMRIの拡散強調像(DWI)の診断精度に関する研究を集め、メタアナリシスを行った。所見としては、脳膿瘍はDWIでは高信号を示し、その他の腫瘍性のう胞はDWIでは低信号を示していた。また研究の結果としては、脳膿瘍の診断におけるDWIの感度は95%(95%CI 87%-98%)特異度は94%(95%CI 88%-97%)、陽性尤度比は4.13(95%CI 2.55-6.7)、陰性尤度比は0.01(95%CI 0-1.7)であった。最終的な診断は、全て手術もしくは生検によって決定されていた。しかし、事前に抗菌薬が投与されていた脳膿瘍では、腫瘍性のう胞のようにDWIで低信号を示すものが多く見られため、注意が必要である。
また、MR Spectroscopy(MRS)という撮影方法に関する研究もある。MRSとは、脳の代謝物の内容を計測することができるMRIの機能のひとつである。Ping-Hong Laiら4)は、50人(組織学的診断で、脳膿瘍が21人、腫瘍性のう胞が23人、類表皮のう胞が3人、くも膜のう胞が3人)の頭蓋内のう胞性病変をもつ患者を集めた。これらの患者に、通常のMRI(T1強調像、T2強調像)、DWI、MR Spectroscopy(MRS)の三つの方法で診断を行い、それらの診断精度に関する研究を行った。結果は、脳膿瘍に対しての通常のMRIの感度は61.9%(95%CI 38.4%-81.9%)特異度は60.9%(95%CI 38.5%-80.3%) 、MRSの感度は85.7%(95%CI 63.7%-97%)特異度は100%(95%CI 85.2%-100%)、 DWIの感度95.2% (95%CI 76.2%-99.9%) 特異度は95.7% (95%CI 78.1%-99.9%)、MRSとDWI併用の感度は95.2% (95%CI 76.2%-99.9%)特異度は100% (95% CI 85.2%-100%)となった。所見としては、脳膿瘍はDWIで高信号を示し、MRSでは乳酸と細胞質アミノ酸に加え、酢酸、コハク酸などがみられるものが多かった。脳膿瘍以外ではDWIは低信号を示し、MRSでは乳酸のみがみられるものが多かった。しかし、病変部に隣接組織の成分が混入している場合は診断精度に欠けるとされているので注意が必要である。
以上より、脳膿瘍の診断ではMRIのDWIやMRSといった撮影方法は感度、特異度ともに十分に高く、脳膿瘍と脳腫瘍の鑑別には有用であるといった結果が得られた。DWIはMRSと比較すると、撮影時間が短い3)4)というメリットがあり、実際の臨床ではDWIの方が脳膿瘍の診断には重宝されるであろう。また、MRSに関する研究はDWIのメタアナリシスに比べれば質が劣ると考えられるため、今後さらなる研究が必要である。最終的な診断は組織学的に行う必要があるが、検体の採取が難しい場合などは血液培養やこれらの画像検査を組み合わせることで脳膿瘍と脳腫瘍の鑑別を行うのがよいと考える。
参考文献
1) レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木 眞/医学書院
2) 脳MRI〈3〉血管障害・腫瘍・感染症・他 高橋 昭喜 /秀潤社
3) X.-X. Xu et al: Can diffusion-weighted imaging be used to differentiate brain abscess from other ring-enhancing brain lesions? A meta-analysis. Clinical Radiology 69 (2014) 909e915
4) Ping-Hong Lai et al: Proton magnetic resonance spectroscopy and diffusion-weighted imaging in intracranial cystic mass lesions. Surgical Neurology 68 (2007) S1:25–S1:36
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