注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『G群溶連菌感染症に対するペニシリンとクリンダマイシンの併用』
本実習において、G群溶連菌(GGS, S. dysgalactiae)による下腿の壊死性筋膜炎をペニシリンGとクリンダマイシンで治療した症例を担当したので、その有効性について考察した。
A群溶連菌(GAS)のβラクタム系抗菌薬に対する感受性は非常に高い。しかし、ペニシリン単剤での治療は、死亡率を高めたり、毒素性ショック症候群(TSS)を伴う重篤な病態につながることがある(1)。これは、大量のレンサ球菌が軟部組織で繁殖しているときは、ペニシリンの効きが低下する(Eagle effect)ためと考えられている。
一方、クリンダマイシンはGASの病原性の一部を担うstreptococcal pyrogenic exotoxins(SPE) A および Bの産生を抑制することがわかっている。ペニシリンとクリンダマイシンに感受性のある14株のGASを用いた研究で、クリンダマイシンはペニシリンよりも明らかにSPE-A、SPE-Bの産生を阻害する作用が強かった(2)。実際に、GAS感染症の治療において、βラクタム系抗菌薬にクリンダマイシンを併用することの有用性が示されている。84例の侵襲型GAS感染症の症例に対する後ろ向き研究で、クリンダマイシンを使用した群は使用しなかった群よりも30日死亡率が低かった(3)。
これらのことから、GAS感染症においてクリンダマイシンを用いることは有用であることがわかるが、このことはG群溶連菌(GGS)にも当てはまると考えられる(4)。生来健康な男性のGGS単独による蜂窩織炎のケースレポートがある(5)。分離されたGGSはペニシリン感受性が確認されたにもかかわらず、ペニシリンGによる治療はほとんど臨床的な改善をもたらさなかったが、クリンダマイシンを追加することで臨床症状は劇的に改善している。
以上より、GGS感染症においてもクリンダマイシンを併用することでEagle効果によるペニシリンの効果減弱をカバーすることが期待できると考えられ、ペニシリンとクリンダマイシンの併用は本症例で施行するに適した治療法であることが示唆される。
一方でG群溶連菌のクリンダマイシンに対する耐性率は8%(4)から33.3%(6)との報告があり、決して低くない。今回の症例で発育したGGSもクリンダマイシン耐性であった。クリンダマイシン耐性の場合に上記治療効果が認められるかは調べた限りで記載がないことから、今後更なる治療実績の集積を待つ必要があると考える。
【参考文献】
(1) Up to date (Dennis L Stevens, MD, PhD. Treatment of streptococcal toxic shock syndrome.
(2) Mascini EM, Jansze M, Schouls LM, Verhoef J, Van Dijk H. Penicillin and clindamycin differentially inhibit the production of pyrogenic exotoxins A and B by group A streptococci. Int J Antimicrob Agents. 2001 Oct;18(4):395-8.
(1) Jonathan R. Carapetis, et al. Effectiveness of clindamycin and intravenous immunoglobulin, and risk of disease in contacts, in invasive group A streptococcal infections. Clin Infect Dis. 2014 Aug 1;59(3):358-65. doi: 10.1093/cid/ciu304. Epub 2014 Apr 29.
(2) Scott WS, Allan RT. Chapter 204. Viridans Streptococci, Nutritionally Variant Streptococci, Group C and G Streptococci, and Other Related Organisms. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 8th Edition. Elsevier Sanders, 2015.
(3) Pillai A, Thomas S, Williams C. Clindamycin in the treatment of group G beta-haemolytic streptococcal infections. J Infect. 2005 Nov;51(4):e207-11.
(4) Merino D. et al. Prevalence and mechanisms of erythromycin and clindamycin resistance in clinical isolates of beta-haemolytic streptococci of Lancefield groups A, B, C and G in Seville, Spain. Clin Microbiol infec 2008 Jan;14(1):85-7. Epub 2007 Nov 22
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