注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
肝硬変のある患者への特発性細菌性腹膜炎予防における、
ノルフロキサシン、ST合剤、セフトリアキソン投与の比較
特発性細菌性腹膜炎(SBP)は肝硬変のある患者に最もよくみられる感染症で、併発による死亡率が25%、1年以内の再発率69%と予後不良である(1)。そのため、肝硬変のある患者にはSBPの予防が重要である(2)。SBPの予防は、耐性菌による感染症の続発を引き起こすことがあるため、SBPハイリスクの患者にしか行わない。ガイドライン(2)によると、ハイリスクとは「SBPの既往」「腹水の蛋白濃度低下(1.5g/dl以下)がある肝硬変」「消化管出血を合併した肝硬変」であり、SBP予防において、前者2つに対してはノルフロキサシンもしくはST合剤の経口投与、「消化管出血を合併した肝硬変」の患者にはセフトリアキソン静注して消化管出血が沈静し次第ノルフロキサシン経口投与へ切り替えることが推奨されている。
1991年から2001年の間に、SBP発症ハイリスクの肝硬変患者57人に対するノルフロキサシンとST合剤によるSBP予防のランダム化比較試験(3) が行われた。この試験での、ノルフロキサシンとST合剤の比較では、SBPの発症率はそれぞれ9.4%と16%でp=0.68と有意差は認められなかったが、副作用の発症に関しては、それぞれ0%と16%でp=0.01と有意差が認められた。ST合剤投与群では、皮疹、上腹部痛、腎機能悪化といった副作用がみられた。また、2005年に行われた、同じくSBP発症ハイリスクの肝硬変患者80人に対するノルフロキサシンとST合剤によるSBP予防のランダム化比較試験(1)では、SBPの発症率はともに5%と変わらず、菌血症、蜂窩織炎、肺炎、尿路感染症といった他の感染症の発症率もそれぞれ20%と17.5%で有意差も認められなかったが、副作用の発症率はそれぞれ0%、22.5%でp=0.01と有意差が認められた。ST合剤投与群では皮疹、胃腸障害、腎障害の副作用がみられた。この2つの試験から、SBP予防に関して、ノルフロキサシンとST合剤はSBP発症予防に関しては差がないものの副作用はST合剤の方がよく見られるということが分かる。
また、肝硬変と消化管出血がみられるSBPハイリスクの患者111人を対象に、ノルフロキサシン経口投与とセフトリアキソン静注による感染症予防を行ったランダム化比較試験(4)では、SBPの発症率はそれぞれ5%と2%で有意差は認められなかったが、菌血症、肺炎、尿路感染症といった他の感染症も合わせた感染症の発症率は、それぞれ33%、11%でp=0.01と有意差が認められた。フォロー中はどちらの群にも副作用は見られなかった。この試験から、肝硬変と消化管出血がみられる患者へはセフトリアキソン静注の方が、ノルフロキサシン経口投与よりも効果的であるといえる。これは、ノルフロキサシンは、近年、グラム陰性桿菌と腸球菌以外の連鎖球菌の耐性菌の出現が問題となっており(4)セフトリアキソンはこれらの耐性菌もカバーすることができるということが原因として考えられている。
以上より、SBP予防では、「SBPの既往」もしくは「腹水の蛋白濃度低下(1.5g/dl以下)がある肝硬変」の患者へはノルフロキサシン投与を第一選択と考え、ST合剤で代替する場合は副作用の発症に十分注意が必要であると言え、また、「消化管出血を合併した肝硬変」の患者ではセフトリアキソン静注を第一選択と考え、入院や毎日の通院が困難な場合などセフトリアキソン静注が困難なときは、感染症の予防率は下がるもののノルフロキサシン経口投与でも代替可能と言える。
<参考文献>
1. A randomized controlled study of trimethoprim-sulfamethoxazole versus norfloxacin for the prevention of infection in cirrhotic patients. Lontos S et al. J Dig Dis. 2014 May;15(5):260-7. doi: 10.1111/1751-2980.12132.
2. Management of Adult Patients with Ascites Due to Cirrhosis: Update 2012.The American Association for the Study of Liver Diseases
3. Trimethoprim-sulfamethoxazole versus norfloxacin in the prophylaxis of spontaneous bacterial peritonitis in cirrhosis. Roberto Fiolic Alvarez et al.Arq. Gastroenterol. vol.42 no.4 São Paulo Oct./Dec. 2005
4. Norfloxacin vs ceftriaxone in the prophylaxis of infections in patients with advanced cirrhosis and hemorrhage.Javier Fernández et al.Gastroenterology (Impact Factor: 13.93). 10/2006; 131(4):1049-56; quiz 1285.
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