注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
術後の再発性急性胆管炎の頻度と抗菌薬による予防の有効性
急性胆管炎の発症は胆道閉塞と胆汁中の細菌増殖の2つの要因がある。(1)このうち、胆道再建によるファーター乳頭の機能が消失することにより、胆汁中の細菌増殖のリスクが増大する。よって、胆道再建は急性胆管炎のリスクとされているため、術後の再発性急性胆管炎の頻度と抗菌薬による予防の有効性について調べた。
Adriano Tocchiらによる後ろ向き研究では、1967年から1997年にかけて胆道腸管吻合術(経十二指腸括約筋形成術、胆管十二指腸吻合術、胆管空腸吻合術)を行った患者1003人を対象に、胆道再建後の胆管炎の発症率と再発回数について調べた。平均フォローアップ期間は129.6か月であった。胆道再建後の胆管炎の発症率は、それぞれ経十二指腸括約筋形成術では637人中72人(11.3%)、胆管十二指腸吻合術では210人中23人(10.9%)、胆管空腸吻合術では156人中10人(6.4%)であった。また、平均再発回数は3回であった。(2)以上より、胆道再建することによって、術後の急性胆管炎のリスクは増大し、再発を繰り返すことがわかった。
S.J. van den Hazelらによる後ろ向き研究では、1983年から1991年にかけて肝門部の悪性腫瘍に対する手術を行い、胆道再建した患者54人を対象に、胆管炎に対する抗菌薬による予防の効果を評価した。平均フォローアップ期間は22.8か月であった。54人のうち、39人が胆管空腸吻合術、13人が肝切除術を伴う胆管空腸吻合術、1人がWhipple法に伴う胆管空腸吻合術、1人が胃腸吻合術に伴う胆管空腸吻合術でそれぞれ手術された。このうち38人が1回以上胆管炎になり、このうち再発を繰り返し、重篤な症状を呈した14人に対して経口での抗菌薬の予防を行った。12人にトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMZ)800/160mg、2人にシプロフロキサシン(CPFX)500mgで予防を行った。予防投与の結果、6人では胆管炎の再発がみられず(平均投薬期間:2.3か月)、5人では大幅な頻度の減少がみられ(平均投薬期間:10.4か月)、3人では再発がみられた(平均投薬期間:5.4か月)。(3)
以上より、術後の胆管炎に対する抗菌薬の予防投与は、胆管炎の再発の頻度を低下させうるが、効果のない例もあった。また、上記の論文には再発の頻度が示されておらず、統計学的評価もなされていない。さらには、対象が重篤な症状を呈した患者であるが、具体的な基準が設けられていないため、信頼性に欠けると考えられる。したがって、個々の患者に抗菌薬の予防投与をするかは慎重に判断する必要があり、また、さらなる大規模な研究が望ましいと考えられる。
参考文献
1. 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013
2. Adriano Tocchi. Late Development of Bile Duct Cancer in Patients Who Had Biliary-Enteric Drainage for Benign Disease: A Follow-Up Study of More Than 1,000 Patients. Ann Surg. 2001 Aug; 234(2):210-214.
3. S.J. van den Hazel et al. Successful Treatment of Recurrent Cholangitis with Antibiotic Maintenance Therapy. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1994 Aug; 13(8):662-5
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