注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染性大動脈瘤における血管内治療の有用性
感染性大動脈瘤の治療のスタンダードは感染巣の外科的除去である。抗菌薬治療も組み合わせて行うことが多い。また、ここ十年程で胸腹部大動脈瘤に対する血管内治療が報告されてきているが、未だ治療のスタンダードとはなっていない。(1) そこで今回は血管内治療の有用性について調べた。
まず、開胸手術・開腹手術との比較をした場合、どちらがより有用なのか。Karlらによる2000年から2007年の間の単施設での感染性動脈瘤の患者11人に対する後ろ向き研究で血管内治療による1年生存率は73%だった。(2) 開胸手術・開腹手術では、Johansenらによる単施設43人の報告があり1年生存率は82%だった。(3)
一方で、Kanらが1980年から2007年の間の血管内治療を含んだ治療を行った感染性胸腹部大動脈瘤の22報告48症例を集めたシステマティックレビューを行った。それによると、完全に回復した患者(発熱(>37.5℃)、出血、敗血症徴候がない)37人の1年生存率は94%であった。一方、感染が持続している患者(長引く熱以外は無症状、または制御できていない敗血症、または大動脈瘤の破裂と出血)11人の1年生存率は39%であり、かなりの差があった。(P<0.05) 感染が持続した因子を多変量ロジステック回帰により解析したところ、動脈瘤の破裂(オッズ比7.93, 95%信頼区間 1.29~48.87)と血管内ステント治療時の37.5℃以上の発熱(オッズ比6.88,95%信頼区間 1.07~44.14)の2つが挙げられた。1)
ちなみに一般的な外科治療時の抗菌薬治療の期間については、単施設での1995年~2003年の間のHsuらによる46人の後ろ向き研究によると、退院後の経口抗菌薬の必要な期間は確立されていないものの、6~8週間の内服から一生の内服が推奨されている。(4) しかし、この研究には血管内治療は含まれていない。血管内治療後の抗菌薬投与期間についての報告はなく、最適な投与期間は不明である。
感染性大動脈瘤はまれな疾患で、後ろ向き研究や症例報告のシステマティックレビューしかなく、また比較している患者群、施設も違うことからバイアスがかかっており、血管内治療がスタンダードな治療である外科手術よりも1年生存率が良いかについての結論は出なかった。しかし少ない報告ながらも、完全に回復した場合には1年生存率は血管内治療群で高かったことから、動脈瘤の破裂と血管内ステント治療時の発熱という二つの感染持続に関与する因子に注意することで、今後血管内治療の有用性が確立されていく可能性がある。
今後、開胸手術・開腹手術との選択、抗菌薬の投与期間などについて更なる研究が必要となってくる。
文献)
1:Chung-Dann Kan, MD et al. Outcome after endovascular stent graft treatment for mycotic aortic aneurysm: A systematic review. J Vasc Surg 2007;46:906-12.
2:Karl Sōrelius, MD et al. Endovascular repair of mycotic aortic aneurysms. J Vasc Surg 2009;50:269-74.
3:Johansen K et al. Mycotic aortic aneurysm. Arch Surg 1983;118:583-8.
4:Ron-Bin Hsu, MD et al. Infected aortic aneurysms: Clinical outcome and risk factor analysis. J Vasc Surg 2004;40:30-5.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。