注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp ま
非好中球減少患者の侵襲性カンジダ症の診断、治療におけるカンジダスコアの有用性
非好中球減少の侵襲性カンジダ症の診断においてカンジダスコアを提唱する報告がある(1)。しかし、日本医真菌学会の侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドラインでは、非好中球減少の侵襲性カンジダ症の確定診断に血液培養が推奨されているのみである。侵襲性カンジダ症を診断するための血液培養の感度は低く、抗真菌薬の投与が遅れると予後が悪化する(1)。また侵襲性カンジダ症が初期治療で適切にカバーされていない頻度は95%という報告もある(2)。なぜカンジダスコアが推奨されないのか疑問に感じたので調べてみた。
カンジダスコアとは、複数定着菌、手術後、中心静脈栄養、にそれぞれ1点、重症敗血症に2点を付与して、得られた合計得点に対してカットオフ値を設け、一定のカットオフ値以上であれば抗真菌薬による治療のメリットがあるとしたものである。Leonらによる1998年から1999年の間に行われた、1699人のICU患者(好中球減少患者は除外)を対象とした多施設前向きコホート研究で提唱された。この研究では、カンジダが定着も感染もしていない719人の患者、カンジダが定着している883人の患者、カンジダが感染している97人の患者(中心静脈栄養、重症敗血症、手術後、腎臓透析中、ICU長期滞在など)の3つの群に分けた。ICUから出る、または死亡するまで経過をたどったところ、カンジダが定着、感染していない患者の死亡率は33.2%、1カ所にカンジダが定着している患者の死亡率は26.5%、2カ所以上にカンジダが定着している患者の死亡率は50.9%、カンジダが感染している患者の死亡率は57.7%となった。カンジダ感染の患者の中でも中心静脈栄養、手術後の患者の死亡率が高値、重症敗血症の患者の死亡率は著明に高値を示した。この研究の結果から、「複数定着」「手術後」「重症敗血症」「中心静脈栄養」がハイリスク因子であるとし、カンジダスコアの要素となった。カンジダスコアのカットオフ値を2.5とした場合、感度81%、特異度74%となる(3)。この結果から感度、特異度はそれほど高くないので、侵襲性カンジダ症の除外診断、確定診断に用いるほどの精度はない。
その後、2006年から2007年にかけてLeonらが行った前向きコホート研究で、ICUに7日間以上いて、カンジダスコアが3未満、抗真菌薬の投与を受けていない場合、侵襲性カンジダ症の発生率は5%未満であるという結果が出た(4)。このことからカンジダスコアはICUでの侵襲性カンジダ症の除外に有用と考えられる。
以上より、カンジダスコアは侵襲性カンジダ症の診断の補助にはなるが、カンジダスコア単独での侵襲性カンジダ症の診断にはリスクがある。
(1)青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版:p1118-1141(2)臨床に直結する感染症診療のエビデンス 青木眞監修p160(3)Leon,et al. A bedside scoring system (“Candida score”) for early antifungal treatment in nonneutropenic critically ill patients with Candida colonization. Crit Care Med. 2006 Mar;34(3):730-737.(4)Leon,et al. Usefulness of the "Candida score" for discriminating between Candida colonization and invasive candidiasis in non-neutropenic critically ill patients: a prospective multicenter study. Crit Care Med. 2009 May;37(5):1624-33.
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