注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ステロイドは感染のリスクをいかに高めるか
ステロイドは多くの炎症性、アレルギー性、免疫系、悪性疾患の治療において重要な役割を果たしている。しかし、その免疫抑制効果により、時に重大な感染症を引き起こすことがある。感染のリスクを高める因子として、ステロイドの投与量と投与期間が主に挙げられる。以下にこれらの相関関係について考察した。
Stuckらは、プラセボを使用した71の研究を集めてメタアナリシスを施行し、さまざまな基礎疾患を持つ患者を対象に、ステロイド治療ありの2111例と治療なしの2087例との間で感染症の発症頻度を比較した。結果、100人当たりの感染症発症頻度が12.7対8.0とステロイド投与群のほうが有意に高かった。(相対危険度1.6;95%信頼区間,1.3-1.9;P<0.01)さらに、用量との関連においては、プレドニン20mg/day以下、20~40mg/day、40mg/day以上の場合に分けて計算されている。1000名・21日投与あたりの感染症発症率は、20mg/day以下の場合5.8件(コントロール群と有意差なし)、20~40mg/dayの場合22.6件(コントロール群の2倍、p=0.004)、40mg/day以上の場合150.7件(コントロール群66.5件、p<0.001)と報告されている。(1)以上のことからステロイド投与においては用量依存的に感染のリスクが増すことが分かる。
期間については以下のことが示されている。日和見感染の成立には細胞性免疫が抑制されていることが必須であり、ステロイド投与が21日以内であれば感染のリスクは最低限にとどまるとされている。(2)また、少なくとも20mg/day以上の量のプレドニンを1ヶ月以上続けるのであれば、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクがより高まるとして、何らかの予防投与をすべきと言われている。(3)さらに、投与間隔については、様々な炎症性疾患をもつ70人の患者において平均45-60mg/dayのステロイドを一日おきに投与したところ、誰も重症な感染症を引き起こさなかったとの報告がある。(4)このように、投与期間が長いほど、投与が連続的であるほど感染症を発症しやすくなるため、たとえ少量であってもステロイドの不必要な長期投与は避けるべきである。
以上より、ステロイド投与による感染のリスクは用量と期間によって決まるので、投与は必要最低限の量を可能な限り短期で行う必要がある。
(1) Stuck AE et al. Risk of infectious complications in patients taking glucocorticosteroids. 1989 Nov-Dec; 11(6):954-63.
(2) Maurizio Cutolo et al. Use of glucocorticoids and risk of infections. December 2008
(3) Worth LJ et al. An analysis of the utilisation of chemoprophylaxis against Pneumocystis jirovecii pneumonia in patients with malignancy receiving corticosteroid therapy at a cancer hospital Br J of Cancer 2005; 92:867-72.
(4) W Winn Chatham. Glucocorticoid effects on the immune system. Aug 21, 2014
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