注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)における血栓形成時の治療について
CRBSIは院内感染症の14%を占めており、その大半は中心静脈カテーテル関連のものである(1)。治療方法や期間は単純性の場合は起炎菌ごとに異なるが、複雑性(化膿性血栓静脈炎、心内膜炎、骨髄炎等が合併しているもの)の場合は長期の治療が必要となる(2)。今回はその中でも血栓形成時の治療について調べてみた。
化膿性血栓性静脈炎を形成している場合の抗生物質の選択や投与期間を示すランダム化試験は無いが、一般的に感染性心内膜炎に準じて長期の抗菌薬投与が必要とされている。IDSAによるCRBSIに関するガイドラインによると、大血管の化膿性血栓性静脈炎の場合、ヘパリンの使用は治療には有効だとされている(2)。この根拠は、1986年にTopiel MSらのカテーテル除去と抗生物質療法を含む初期治療に失敗したCRBSI患者に対してヘパリンによる抗凝固療法が有効であったとする報告(3)や、Kaufmanらによる、カテーテル抜去、抗凝固薬および抗生物質の投与が、5人のCRBSIの患者に有効であったという報告(4)など、症例報告のみをもとにしている。そこでMatthew Eらはカテーテル留置の有無や血栓の形成部位にかかわらず、化膿性血栓性静脈炎に対してヘパリンを使用した論文を検索し、複数の症例報告と1本のRCTによるsystematic review(5)を行った。それによると、深部化膿性血栓性静脈炎の患者に対して抗菌薬に加えてヘパリンを追加した場合、死亡率は115例中2例のみの1.7%と低かったとしている。また、3つの症例報告では、抗菌薬投与のみで治療がうまくいかなかった場合にヘパリンを投与し、投与後1.5~2.5日で解熱したとしている。しかし一方で、ここで引用されているBrownらのRCT(6)では、ヘパリンの投与の有無で解熱までに有した時間は、投与した6人が134±65時間、投与しなかった8人が140±39時間であり、有意差はなかったとしている。また、Systematic review自体も、ヘパリンを投与せずに治療された患者の報告が上記のRCT以外には含まれておらず、ヘパリン投与のタイミングも統一されていないといった問題があり、一概にヘパリンの有用性を保証するものではない。
以上を踏まえると、CRBSIに化膿性血栓性静脈炎を合併した場合の治療に関して、正確な評価に至る研究はまだされておらず、今後大規模な比較試験が行われる事が期待される。
〈参考文献〉
(1) ハリソン内科学 第4版975-6
(2) Mermel,et al.Guidelines for the management of intravascular catheter-related infections.CID 2001;32:1260-6.
(3) Topiel MS,et al.Treatment of silastic catheter-induced central vein septic thrombophelebitis.Am J Med Sci 1986;291:425-8.
(4) Kaufman J, ,et al,Catheter-related septic central venous thrombosis—current therapeutic options.West J Med 1986;145:200-3.
(5) M.E. Falagas et al. Intravenous heparin in combination with antibiotics for the treatment of deep vein septic thrombophlebitis,A systematic review European Journal of Pharmacology 2007;557: 93–98.
(6) Charles E. Brown et al.Puerperal septic pelvic thrombophlebitis: Incidence and response to heparin therapy, Am J Obstet Gynecol.1999;181:143-8.
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