注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病性足感染症の起因菌としてMRSAを疑う因子について
糖尿病性足感染症(diabetic foot infections; 以下DFIと略記する)の起因菌は黄色ブドウ球菌が最多であり、連鎖球菌、グラム陰性桿菌と続く。嫌気性菌を含む混合感染であることが多い1)。MRSAも起因菌のひとつであり、その割合は報告により異なるが5%から30%といわれている2)。ではどのような場合にMRSA感染を疑えばいいのだろうか。
IDSAのガイドラインにはDFIにおいてMRSA感染のリスクを上げる因子が挙げられている2)。長期間の抗菌薬の使用歴、入院歴、足の傷の期間、骨髄炎の存在、鼻腔内MRSA保菌 の5つの因子である。今回のレポートではこれらの因子がどのような論文で説明されているのかを調べた。この際、「傷から得たサンプルでMRSAが培養された場合、MRSAがDFIの起因菌である」という解釈で検索を進めた。
まず長期間の抗菌薬の使用歴について述べる。1999年に発表された論文によると、DFIで通院している75人の患者について傷の表面からサンプルを得て後ろ向きの解析をしたところ、以前抗菌薬治療を行っていた患者にMRSA感染が多いとの結果が出た3)。
次に入院歴とDFIにおけるMRSA感染について、2014年に発表された論文に両者が関連するという可能性が示唆されている4)。この論文は57人の入院患者で手術後の組織からサンプルを得て後ろ向きコホート研究を行ったものである。
足の傷の期間については2009年に報告されている5)。379人の患者を対象に行われた研究であり、傷の深い部位からサンプルを集めた。多変量解析の結果DFIにおけるMRSA感染のリスク因子として最も関連の深いものは慢性的な潰瘍であるとしている(オッズ比2.31)。
次に骨髄炎については2010年にWangらが報告している6)。DFIで入院している患者118人を対象にした後ろ向き症例対象研究を中国にて行い、骨髄炎がある場合にMRSA感染が疑われると結論づけた(オッズ比18.51)。一方でLaveryらは2014年に後ろ向きコホート研究を行い、骨髄炎とMRSA感染に深い相関は認められないという結論を出しており4)、研究のデザインの違いで相反する結果となっていた。
最後に鼻腔内のMRSA保菌である。Laveryらは鼻腔内を擦過しMRSAが分離された場合にDFIの原因菌としてMRSAを疑うことができると報告した4)。その一方で、市中感染型MRSAに感染している小児を対象とした研究の結果、診断的価値はないとする論文もあった7)。
以上のように複数の論文がDFIにおけるMRSA感染のリスクファクターについて調査しているが、どの研究も症例数が限定されており数値の妥当性には限界がある。地域、対象、研究デザインも異なるため相互に比較することも難しく、研究により異なる結果となる因子もあった。さらには傷から得たサンプルでMRSAが培養されたとしても、そのMRSAが実際に感染症の原因となっているかどうかは明確に診断できるものではない。しかしこのように論じられていた複数のリスクファクターをもとにMRSA感染を疑う契機とすることはできる。将来自分が診療していく中でDFIに出会った際は、これらのリスクファクターを勘案して微生物学的な検討をすすめていきたい。
参考文献:1)青木眞 レジデントのための感染症マニュアル 第3版 医学書院 2)Lipsky B, Berendt A, Cornia P et al. 2012 Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Treatment of Diabetic Foot Infections 3)Tentolouris N, Jude EB, Smirnof I et al. Methicillin-resistant Staphylococcus aureus: an increasing problem in a diabetic foot clinic. Diabet Med. 1999 Sep;16(9):767-71. 4)Lavery L, Fontaine J, Bhavan K et al. Risk factors for methicillin-resistant Staphylococcus aureus in diabetic foot infections. Diabet Foot Ankle. 2014, 5: 23575. 5)Yates C, May K, Hale T et al. Wound chronicity, inpatient care, and chronic kidney disease predispose to MRSA infection in diabetic foot ulcers. Diabetes Care. 2009 Oct;32(10):1907-9. 6)Wang SH, Sun ZL, Guo YJ et al. Meticillin-resistant Staphylococcus aureus isolated from foot ulcers in diabetic patients in a Chinese care hospital: risk factors for infection and prevalence. J Med Microbiol. 2010 Oct;59(Pt 10):1219-24. 7)Bar-Meir M, Tan TQ. Staphylococcus aureus skin and soft tissue infections: can we anticipate the culture result? Clin Pediatr (Phila). 2010 May;49(5):432-8.
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