注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
化膿性脊椎炎の治療における赤沈降下速度の意義
抗菌薬投与による化膿性脊椎炎の治療期間は、4~6週間とされており(1)幅がある。しかしフランスでのstudy(2)において、6週間の治療でも12週間でも治療成績に差はなく、共に約9%は再燃するとされる。では治療が奏功しているかを簡単に判定する指標はないだろうか。今回は、化膿性脊椎炎の診断にも用いられる、採血で測定可能な簡便さを有する赤沈降下速度(以下ESRと記載)に着目し、化膿性脊椎炎に対する治療への反応の指標として有用かを考察していきたい。
Stanford University School of Medicine and the Orthopaedic Spine Centerでの、44人の化膿性脊椎炎患者の治療経過とESRを追った後ろ向き観察研究(3)がある。保存治療(ここでは非外科的治療のこと)の失敗を重大な運動失調の進行、外科的介入が必要なほどの変形、ドレナージが必要な敗血症あるいは膿瘍の出現、又はその感染が原因での死亡と定義した場合、結果は44人中32人が保存治療に成功し12人が失敗した。そして、治療開始から1ヶ月でESRが25%以上低下した26人中23人(88.5%)が保存治療に成功した一方で、ESR低下が25%以内に留まった18人中で保存治療に成功したのは9人(50%)であった(P=0.005)。また、ESRが25%以上低下しても26人中3人(11.5%)は保存治療に失敗し、ESRの低下が25%以内に留まっても18人中9人(50%)は治療に成功した。さらに、ESRの低下が50%を越えた患者10人中2人(20%)が治療に失敗した。またESRが低下せず治療前以上の値になった6人中3人(50%)が治療に成功した。
これらの結果により、保存療法開始1ヶ月で25%以上のESR低下は、保存療法が成功する可能性を有意に上昇させるといえる。一方で、ESRが50%以上低下しても治療に失敗する例や、ESRが上昇しても治療に成功する例もあり、化膿性脊椎炎の保存治療の成否がESRの低下で充分に予測できるとは言えない。よってESR単独での治療効果の判定はできず、使用する場合は注意が必要である。
参考文献
(1) レジデントのための感染症診療マニュル第3版 青木眞
(2) Antibiotic treatment for 6 weeks versus 12 weeks in patients with pyogenic vertebral osteomyelitis : an open-label , non-inferiority , randomized , controlled trial.;Lancet. 2015;385(9971):875
(3) Spine Volume 22(18),15 September 1997,p 2089-2093 The Clinical Use of Erythrocyte Sedimentation Rate in Pyogenic Vertebral Osteomyelitis.
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