ファイルを間違えていました。すみません。差し替えます。2015年4月8日
注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
重症急性膵炎後の予防的抗菌薬は有用か
急性膵炎の20%を占める重症急性膵炎の死亡率は高い。その死亡例(急性膵炎発症から2週間以内)のうち、30~50%は感染性膵合併症によるとされる(1)。ここで感染性膵合併症とは、感染性膵壊死を主とした膵および肺、尿路の感染症をさす(2)。日本の急性膵炎診療ガイドライン2010では、重症例に対する抗菌薬の予防的投与によって、感染性膵合併症の発生の低下が期待できるとし、抗菌薬投与を推奨している(推奨度B)。しかしAmerican college of gastroenterology guidelineでは、膵炎のタイプや重症度に関わらず、急性膵炎に対する予防的抗菌薬投与は推奨されないとしている。つまりわが国のガイドラインとAmerican college of gastroenterology guidelineには正反対とも言える違いがある。私たちはこの違いを、どのように解釈すればよいのだろうか。
日本のガイドラインにおける、予防的抗菌薬投与の有用性を裏付けるものとして、2003年そして2006年のVillatoroらのシステマティックレビューが挙げられている(3) (4)。前者では、予防的抗菌薬の投与により、生命予後の改善(オッズ比=0.32, p=0.02)、そして感染性膵壊死の減少(オッズ比=0.51, p=0.04)が、後者では、予防的抗菌薬投与による生命予後の改善(オッズ比=0.37 (95% CI 0.17-0.83))がそれぞれ有意に示されている。
American college of gastroenterology guidelineでは、Jiangらによるメタアナリシスを、予防的抗菌薬投与を推奨しない根拠として挙げている(5)。11のRCTを含んだこの論文では、NNTは1429であった。加えて、Baiらの、7つのRCTによるシステマティックレビューでは、467人の患者を、抗菌薬投与群とプラセボ群に分けて比較した(6)。その結果、感染性膵壊死の罹患率は相対危険度(RR)=0.81(95% CI 0.54-1.22)(抗菌薬投与群17.8%vsプラセボ群22.9%)、死亡率はRR=0.70(95% CI 0.42-1.17) (9.3%vs15.2%)であり、予防的抗菌薬投与により感染性膵壊死の発生率、そしてそれによる死亡率は有意には抑えられなかった。さらに2006年のThe New England Journal of Medicine、2004年のGastroenterologyにおいても、急性膵炎に対する予防的抗菌薬投与は推奨されないとしている(2)(7)。そして、わが国のガイドラインを裏付けていた二つに新たなRCTを加えたシステマティックレビューが2010年、Villatoroらにより行われた。そこで、イミペネム単独投与以外の予防的抗菌薬投与により、感染性膵合併症の頻度は有意に低下しない(p=0.02; RR 0.34, 95% CI 0.13 -0.84)と報告された(8)。しかしイミペネムに関しても、2009年のXueらの論文によって、投与時と非投与時の感染性膵壊死の頻度(27.6% vs 37%)、死亡率(10.3% vs 14.8%)に有意差はない(p>0.05)と報告されている(9)。
予防的抗菌薬投与の推奨度については低くなっているといえる。ただ有意差はついていないにしろ、上に挙げた論文全てで予防的抗菌薬投与群の死亡率と感染性膵壊死合併率は低い。つまり推奨はできないが有用である可能性はある。始まりでも述べたように感染性膵合併症による死亡率は高い。今後もさらなる検討が待たれる領域である。
(1)臨床に直結する集中治療のエビデンス 編集:讃井將満 文光堂.東京
(2)David C. N Engl J Med 2006; 354:2142-2150 Acute Pancreatitis
(3)Bassi C et al . Cochrane Database Syst Rev. 2003;(4):CD002941. Antibiotic therapy for prophylaxis against infection of pancreatic necrosis in acute pancreatitis.
(4)Villatoro E et al . Cochrane Database Syst Rev. 2006 Oct 18;(4):CD002941.
Antibiotic therapy for prophylaxis against infection of pancreatic necrosis in acute pancreatitis.
(5) Jiang K et al . World J Gastroenterol. 2012 Jan 21;18(3):279-84. Present and future of prophylactic antibiotics for severe acute pancreatitis.
(6)Bai Y et al . Am J Gastroenterol. 2008 Jan;103(1):104-10.
Prophylactic antibiotics cannot reduce infected pancreatic necrosis and mortality in acute necrotizing pancreatitis:
(7)Isenmann R et al. Gastroenterology. 2004 Apr;126(4):997-1004.
Prophylactic antibiotic treatment in patients with predicted severe acute pancreatitis: a placebo-controlled, double-blind trial.
(8)Villatoro E et al.Cochrane Database Syst Rev. 2010 May 12;(5):CD002941.
Antibiotic therapy for prophylaxis against infection of pancreatic necrosis in acute pancreatitis.
(9) Xue P et al J Gastroenterol Hepatol. 2009 May;24(5):736-42.Effect of antibiotic prophylaxis on acute necrotizing pancreatitis
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。