注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工関節周囲の感染は、Total Knee Arthroplasty(TKA)の合併症の中で最も厄介な合併症の一つである。この合併症への治療は基本的に手術による再置換術、および抗菌薬の投与であるが、再置換術には二段階法と二段階法を短縮した一段階法の二つがある。
二段階法とは、まず手術により前の人工関節を除去し、4~6週間の抗菌薬の投与、2週間の休薬の後に新しい人工関節を植え込み、同時に細菌検査を提出し、その後6ヶ月間抗菌薬を投与する(培養が陰性なら途中で中止可)という手法であり、一段階法とは、一回の手術で前の人工関節の除去と新しい人工関節の植え込みを同時に行う手法である。(1)
Zimmerliらによると、二段階法は複数回の手術に耐えることが可能であれば、軟部組織の状態が良くない時、瘻孔、膿瘍を形成している時、また、原因微生物が治療困難な場合(MRSA、腸球菌など)でも適応になる。一方、一段階法の適応は軟部組織の状態がよく、重篤な合併症がなく、原因微生物が治療困難なものでない時である。(2)
二段階法では、適応範囲が広いが治療期間が長く、コストも高い。反対に一段階法では、治療期間が短くなる、経済的負担が軽くなるといった利点があるが、適応範囲が限られている。(3)
一段階法と二段階法の比較を、再感染率に着目して行ったMasters Jらのsystematic reviewによると、一段階法に関する4つの論文において、再感染率は0 %、5%、9.1%、11%であった。
一方、二段階法に関する58の論文において、再感染率は0%~41%の間であった。(4)
これらの論文の内、大半は単一施設での論文であり、また、対照群が存在しない論文であり、結果を対比することができない。さらに、再感染の定義として広く認知されているものはなく、論文によって異なることなどによりバイアスが生じてくる。一段階法の再感染率の論文間の違いの幅が狭いのは、一段階法に関する研究の少なさが反映されており、二段階法の再感染率の違いの幅が大きいのは、論文間で患者の選定の基準や術者の技術が異なっていたことなどが影響している。
今回、TKAの術後の感染に対する一段階法および二段階法の優位性を検証することは叶わなかったが、もし2つの手法間であまり再感染率に差がなかった場合、一段階法には上記のような利点があるため、これから適応が増えるかもしれない。したがって、一段階法と二段階法を直接比較する研究がなされるべきであると考える。
(1)Douglas R et al. Diagnosis and Management of Prosthetic Joint Infection: Clinical Practice Guidelines by theInfectious Diseases Society of America. Clinical Infectious Diseases Advance Access published 2012.
(2)Zimmerli W et al. Prosthetic-Joint Infections. N Engl J Med 2004;351:1645-54
(3)Wolf CF et al. Comparison of one and two-stage revision of total hip arthroplasty complicatedby infection: a Markov expected-utility decision analysis. J BoneJoint Surg Am 2011; 93:631–9.
(4)Masters J et al. A systematic review of the evidence for single stage and two stage revision of infected knee replacement. BMC Musculoskelet Disord. 2013 29;14:222.
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