これも出版社からお送りいただいた。感謝します。
厚労省の官僚たちと話をすると、「上先生の考え方が参考になる」というプロカミ派と、「上先生のようになってはダメだよ」というアンチカミ派の真っ二つにわかれているのを強く感じる。プロであれ、アンチであれ、上氏の言動が医療行政業界に強い影響力を及ぼしている証左であろう。
本書は日本国内の医師数格差の原因を地方ごとに、そして歴史的に検証した分析本である。その結論、「医者が一番足りないのは関東地方」という結論は、業界人には周知のことで、ぼくのように東と西の両方で仕事をした医者にとっては身にしみて実感できる事実だ。
ただし、上氏の世界観とイワタの世界観はほとんど真逆である。それはぼくがアンチカミ派だ、という意味ではない。ぼくは厚労官僚たちが「岩田先生はプロカミ?アンチカミ?」という踏み絵的な質問をしてくるたびに、「そういうのは興味が無い」と答えてきたのである。談志の「二階ぞめき」のパロディで言うならば、「それはどっちでもよい派」である。
例えば、上氏の著作には「ランキング」「名門」「格」といったキーワードが頻出する。本書でも大学間ランキングみたいなのがたくさんでてきて、ご丁寧に医学部の学生がそういうのを調査していたりする。もちろん、本書にも東大批判とか灘高の問題点とか指摘されているが、それは愛情の裏返しなのであって、上氏の名門崇拝は相当なものだ。
で、これに対する「アンチ名門」というのもよくある話なのだが、ぼくはアンチ名門にも全然興味が無い。アンチ名門も、名門を熟知し、調べあげている。昔流行った「東大話法」とかがそうだ。ぼくはそっちにも全然関心がないのでこの領域は完全に無知である。研修医の履歴書を読んでも出身校が全然理解できないし、神戸に住むまでは灘高は共学だと思っていた。ところで、開成高校って共学ですか?
上氏は「業界事情に徹底的に詳しくなる」ことで現在の立ち位置を確立した人で、とにかく業界の内部事情に詳しい。ぼくはこういうのにも全然興味がなく、「無関心」である。週刊誌や新聞をまったく読まないのもそのせいだ。そういう暇があったらもっと別のものを読む。ここでも真逆なのである。
ただ、それではだめだ、とも最近は痛感している。例えば歴史である。ぼくは歴史をちゃんと勉強してこなかった負の歴史に今猛省させられている。世界史も日本史も一所懸命勉強中だ。本書にあるような灘高の由来や各医学部の成立事情なんかをサボらずに勉強するのは大事である。その延長線上に、例えば姫路にメディカルスクールを作る条件、みたいな議論ができる。ちなみにぼくはメディカルスクール制には前から懐疑的で、数年前に書いたときと意見は変わってない。医学部は増やしてもよいかもしれんが、これも人口減少や自治体消滅がリアルに議論される中、「これまでの事情」をそのまま外挿してよいかどうかは、なかなか難しいと思う。
何度も言っているが、ぼくのなかで「医師の理想像」はポール・ファーマーである。ポールもカミ史観には縁遠い存在で、そこは(そこだけは)ぼくにやや似ているのだが、彼のすごいところは、そういう精神でいながら世俗的な事情通にもちゃんとなれるところである。ぼくが忌避しがちな業界事情も進んで吸収し、かつ絶対にそこに染まらない。ここまで行けば理想的なのだが、もちろんぼくのような半ちくな医者にはちょっと真似できない。
いずれにしても歴史の勉強は本当に大事で、例えば本書でも出ている「名門」岡山の第三高等学校医学部については次著で述べる。ちなみに、この本、「サルバルサン戦記」を読んでいただければ、イワタがプロカミでもアンチカミでもなく、「全く違うことを考えている」のだとご理解いただけよう。
まあ、あと細かいことだが「日本の医学部が高コスト体質であることは間違いない」(145p)はさすがに言い過ぎで、いくら値上げしたとはいえ、国公立大学医学部の学費はアメリカのそれとは比較にならない。私立は高いのは事実だが、アメリカは8年間大学に行かねばならないことを考えると、アメリカのほうがコスパがよいというのは明らかに誤謬である(これもイワタがメディカルスクール制にに賛成しない理由の一つである)。
本書が指摘するように、東日本の人が西に行くのを「都落ち」と感じる人が多いのは事実で、それが間違った認識だというのも事実だ。地球儀で見れば、どっちも「同じようなもの」であり、要はどこから見るかの視点の問題なのである。上氏はだから、「西へ行け」と言う。アンチカミ派は「都落ちせず、東にとどまれ」と言うであろう。
ランキングには興味が無いイワタは、「どっちでもいいんじゃない?どこに居たって勉強くらいできるよ」とこれまた思ってしまうのである。
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