注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
血液培養で黄色ブドウ球菌が検出された時に何を考えるか
血液培養から菌が検出された時、まず考えるのはそれが起炎菌かコンタミネーションかである。血液培養で検出されるS.aureusは87%で起因菌であり、コンタミネーションは6.4%1である。だから血液培養でS.aureus が検出された場合には、S.aureusによる菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia ;SAB)として対応する。
SABと判断したら、感染源の検索を行う。皮膚や軟部組織感染症や血管内カテーテル、骨髄炎、肺炎、生体異物などを検索する。1/3~1/2の症例では感染源不明で、その場合は感染性心内膜炎(Infective endocarditis ;IE)、椎体炎、硬膜外膿瘍、化膿性関節炎、腹腔内膿瘍などの合併や転移性病変を示唆するとされる2。また、治療開始後48時間から96時間後の血液培養陽性持続や、患者が若年であること、市中発症であること、治療開始後72時間以上発熱が持続することも合併症を疑う重要な所見である3。
治療に際し、まずカテーテル、ペースメーカー、人工関節などの異物があれば、可能な限り除去する。異物はSABのリスクである上に、治癒を困難にするためである。SABにおいて、異物を除去した場合の死亡または再発は16%であったのに対し、異物を除去しなかった場合、56%の患者が死亡あるいは再発したという報告がある4。初期治療としては、感受性結果が出るまではバンコマイシン、もしくはダプトマイシン5を投与する。MSSAと判明した場合、セファゾリンが第1選択薬として推奨される。重篤なペニシリンアレルギーがある場合や、セファゾリンにアレルギーがある場合には、バンコマイシンを使用する。MRSAの場合は、バンコマイシンが第1選択である。
合併症の中ではIEの頻度が最も高く、SABの約25%がIEを合併する6。単なる菌血症とIEは必要な治療期間が異なり、不適切な治療は菌血症再発の原因となるため、全例でIEを疑った問診、身体診察を行い、IEのリスクが高い症例(市中感染、原発巣なし、転移性病変なし2、菌血症が4日以上持続、心臓内の異物、血液透析患者、脊椎感染症、骨髄炎7)では心エコーによる検索を行う。まず侵襲性の低いTTE(感度約60%8)を行い、陰性であった場合はTEEも検討する。TTEとTEEを併用することで、感度100%、特異度99%となるとする報告もある6。疣贅はIEのうち67%の症例に存在し2、33%の症例では形成されない。そのためIEであるか否かは、心エコーの結果だけではなくDuke Criteria(感度90%9)に基づき判断する。
単なる菌血症とIEの区別は困難なことも多い。菌血症の治療期間は、感染源が明確で除去可能であれば血液培養陰性化してから最低2週間行い、不明ならばIEとして4-6週間抗菌薬投与を行う2。SABでは1/3が合併症を生じること、その場合の死亡率は19~65%、心不全発生率は20~50%2とされることから、判断が難しい場合にはIEに準じた治療を行うべきである。
参考文献
1)Weinstein MP, et al. The clinical significance of positive blood cultures in the 1990s: a prospective comprehensive evaluation of the microbiology, epidemiology, and outcome of bacteremia and fungemia in adults. Clin Infect Dis 1997;24:584-602
2)レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 医学書院
3)Keynan Y, et al. Staphylococcus aureus bacteremia, risk factors, complications, and management. Crit Care Clin. 2013 Jul;29(3):547-62.
4)Fowler et al. Outcome of Staphylococcus aureus bacteremia according to compliance with recommendations of infectious diseases specialists: experience with 244 patients. Clin Infect Dis (1998) vol. 27 (3) pp. 478-86
5) Vance G Fowler, Jr, MD, et al. Clinical approach to Staphylococcus aureus bacteremia in adults-up to date
6)Fowler VG Jr, et al. Role of echocardiography in evaluation of patients with Staphylococcus aureus bacteremia: experience in 103 patients. J Am Coll Cardiol 1997; 30:1072.
7) Achim J. Kaasch, Use of a Simple Criteria Set for Guiding Echocardiography in Nosocomial Staphylococcus aureus Bacteremia. Clin Infect Dis. (2011) 53 (1): 1-9. doi: 10.1093/cid/cir320
8)感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
9)内科ポケットレファランス 第1版第4刷 メディカル・サイエンス・インターナショナル社
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。