注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
喀痰塗抹検査が3回陰性であれば個室隔離を解除してよいか
WHOによると、結核はHIV・AIDSに次いで、単一の感染による死亡者数の多い感染症であり、2013年には900万人が罹患し150万人が亡くなったとされる。多くの国で喀痰塗抹検査が診断に用いられている1)。肺結核を疑った場合、初回診断時は3日間(3回)の喀痰を採取して塗抹および培養検査を行う。塗抹検査は最も短時間で成績が得られ、迅速検査としての有用性が高いが、材料中の菌数が多くなければ検出できない2)。喀痰塗抹検査の結果と排菌性結核の関係について調べた。
1996年から2004年までの期間で、オランダで新たに結核であると診断された患者のうちDNA指紋が特定されている患者を、DNA指紋が相同な集団に分けた。それぞれの集団の中で最も早く診断のついた患者をindex patientとし、index patientの喀痰塗抹検査の結果で集団を分類した。喀痰塗抹陽性の集団は267集団で含まれる患者は961人、喀痰塗抹陰性の集団は92集団で含まれる患者は242人であった。index patient以外の患者は844人で、喀痰塗抹陽性集団には694人(87.4%)、喀痰塗抹陰性集団には150人(12.6%)が含まれていた。したがって、患者の12.6%は、喀痰塗抹陰性の患者と相同なDNA指紋をもつMycobacterium tuberculosisに感染しており、喀痰塗抹陰性の患者から感染した可能性があるといえる3)。また塗抹検査で陰性であった患者から感染したと思われる症例では、塗抹検査が陰性である傾向が認められた3)。しかし、ここでは集団の中で最初に結核と診断された患者をindex patientとしたが、この患者が集団の最初の感染者であるとは限らない。また、相同なDNA指紋をもつだけでは、そのindex patient以外からの感染を否定できない。さらに、喀痰検査では患者側の要素が多分にあり、偽陰性となることも多いと考えられ、この調査ではそれを十分に考慮されていないといえる。この調査では喀痰塗抹検査の回数が不明であり、3回塗抹検査を行い、排菌結核を除外して調査した場合は異なる結果になると考えられる。
上記の調査より、喀痰塗抹検査で陰性であっても他者への感染が考えられる症例があることがわかった。しかし、排菌結核のスクリーニングとしては、侵襲度や費用、早さの面から喀痰塗抹検査以上のものはないと考えられる。以上より、咳や痰などの呼吸器症状を伴い肺結核の疑いがある患者で塗抹陰性であっても、患者側の因子による偽陰性であることが疑われる場合は、胃液検査や気管支鏡検査などの他の検査の結果が判明するまでは空気感染隔離の解除を先延ばしにすることが必要な場合もあると考えられる。
【References】
1) http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs104/en/ access date: 5/11/14
2) 日本結核病学会(編):結核診療ガイドライン,改訂第2版,南江堂,2012
3) Alma Tostmann et al:Tuberculosis Transmission by Patients with Smear-Negative Pulmonary Tuberculosis in a Large Cohort in The Netherlands.Clin Infect Dis.2008;47(9):1135-1142
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