注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の複雑性と単純性の違いと抗菌薬ロック療法
CRBSIとは、感染の臨床症状(発熱、悪寒、血圧低下など)を認め、カテーテル以外にその他の明らかな血流感染源がなく、血管内デバイスの存在する患者の末梢静脈から採取された1本以上の血液培養が陽性の菌血症あるいは真菌血症である。(1 1995年から2002年にアメリカの49病院で起こった医原性血流感染症 24,179例のうち、CRBSIの原因菌としては、Coagulase-negative staphylococci(以後、CNS)(31%)、S.aureus(20%)、Enterococci(9%)、Candida species(9%)、Escherichia coli(6%)、Klebsiella species(5%)などがあげられる。アメリカでは、毎年約25万例ほどの医原性の血流感染症が確認されている。(2 CRBSIのrisk factorとしては、host側の要因としては、慢性病、骨髄移植、免疫不全(特に、好中球減少時)、栄養不足、BSIの既往、高齢があげられる。カテーテル側の要因としては、カテーテルの種類、病院の規模、挿入部位、カテーテル留置の期間、カテーテル留置者のスキルがある。(2
CRBSIは、単純性と複雑性に分けられ、単純性とは血管内異物・心内膜炎・化膿性血栓性静脈炎がなく、血流感染と発熱が治療介入から72時間以内に改善するものである。また、病原菌がS.aureusであれば、活動性悪性腫瘍や免疫不全を合併していないものが該当する。複雑性とは、定義としては単純性ではないものが該当する。単純性CRBSIに対して推奨されている治療期間や方法は原因菌によって異なる。一般的には抜去の上で14日間の治療が進められているが、CNSによるCRBSIで中心静脈カテーテルを抜去できない場合、抗菌薬全身投与に加え、抗菌薬ロック療法を10~14日間継続する。ただしS.aureusの場合では、カテーテルを抜去し、抗菌薬ロック療法を行わずに14日間以上の抗菌薬全身投与を行うように奨められている。複雑性の中でも化膿性血栓性静脈炎、心内膜炎を合併している場合、カテーテルを抜去し4~6週間の抗菌薬全身投与を行う。ただし、骨髄炎を合併している場合の治療期間は成人の場合、6~8週間となる。(3
このCRBSIの治療ガイドラインでは、単純性CRBSIにおいて抗菌薬ロック療法を行う群と行わない群が存在する。具体的には、S.aureusのみ抗菌薬ロック療法を行わない。なぜであろうか。
カテーテル関連菌血症(以後、CRB)に対する抗菌薬ロック療法の効果を調べた、Nuria Fernandez-Hidalgoらによる研究がある。98人のCRBSIになった患者、115例について分析した。抗菌薬の全身投与と抗菌薬ロック療法を同時に始め、抗菌薬ロック療法として、グラム陽性菌にはvancomycinを2000mg/L投与し、グラム陰性桿菌には2000mg/Lのciprofloxacinまたはamikacinを投与した。効果判定は、臨床的かつ微生物学的判定基準で評価され、治癒は、治療完了後1ヶ月でカテーテルを抜去せずに、末梢血とカテーテル逆血から得た血液培養の両方で陰性となることと定義した。病原菌は、グラム陽性菌(CNS:56例、S.aureus:20例、他のグラム陽性菌:5例)が81例(70%)、グラム陰性桿菌(Pseudomonas aeruginosa:5例、Escherichia coli:11例、他のグラム陰性桿菌:10例)が26例(23%)、多菌種が8例(7%)である。治療の94例は成功し、21例は失敗した。(S.aureus:9例、CNS:9例、Proteus vulgaris:1例、Pseudomonas aeruginosa:1例、多菌種:1例)。S.aureusの治療失敗例は、20例中9例(45%)と、他の原因菌(次に高いP.aeruginosaで治療失敗率20%)と比べ、高い治療失敗率であり、この研究からは治療として抗菌薬ロック療法は推奨されないと考える。(4他の文献でも、S.aureusに関しては、カテーテルを抜去することが最も確実な治療法であり、カテーテル留置に関連した死亡例や再発例が過去に報告されている。(5
以上から、S.aureusには抗菌薬ロック療法を行わず、カテーテルを抜去し抗菌薬全身投与する治療法が推奨されていると考える。
【参考文献】
1. Leonald A. Mermel et al, Guidelines for the Management of Intravascular Catheter-Related Infections.
2. Robert Gaynes et al, Epidemiology, pathogenesis, and microbiology of intravascular catheter infections.
3. Leonald A. Mermel et al, Clinical Practice Guidelines for the Management of Intravascular Catheter-Related Infection:2009 Update by the Infectious Disease Society of America.
4. Nuria Fernandez-Hidalgo et al, Antibiotic-lock therapy for long-term intravascular catheter-related bacteraemia: results of an open, non-comparative study.
5. Staphylococcus aureus bacteremia in patients with Hickman catheters. AmJ Med.1990 Aug:89(2):137-41
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