注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
異物が挿入されている骨髄炎の治療
骨髄炎とは、病原微生物(特に黄色ブドウ球菌)による血行性または局所の障害により生じた骨皮質から骨髄の一部もしくは全体に及ぶ感染症のことである。急性骨髄炎では局所の炎症所見(発赤、疼痛、熱感)が認められる。診断にはCT・MRIが有用で感度・特異度ともに優れている。最終的な診断は起炎菌の同定である。治療の基本は抗菌薬投与だが、異物関与の骨髄炎や痛みが治まらない場合には外科的治療も行われる。
骨折などによるプレート、人工関節などの生体異物の使用に伴う骨髄炎では約90%で疼痛が見られる。起炎菌としてコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が最も多く(30~43%)、黄色ブドウ球菌(10%~23%)やレンサ球菌(10%)、腸球菌(3~7%)、グラム陰性桿菌(3~6%)の順に多い。1)また約10%で起炎菌が不明である。発熱や発赤などの所見は起炎菌の病原性によって変わり、病原性が強いほど顕著に顕われる1)。基本的な治療として、感染部位の起炎菌に応じて最初は静注で抗菌薬を投与した後、経口抗菌薬に切り替える。標準的な治療期間は無く、症状に応じて決める。骨折が治癒するまでプレートを残さないとならない場合は、長期間の経口抗菌薬投与を考慮する必要がある。
1992年から1997年にかけて、スイスのバーゼルで、生体異物を伴うブドウ球菌由来の骨髄炎に対するリファンピシンとキノロン系(シプロフロキサシン)の併用の有効性に関する研究が行われた2)。人工膝・股関節または骨接合のためにプレートを埋め込んだ後に骨髄炎を起こして2ヶ月以内の33人を対象とする、プラセボを用いた2重盲検ランダム化試験であった。治療は研究終了時に、(1)感染兆候の有無,(2)CRP<5mg/L,(3)画像上炎症所見の有無,(4)起炎菌または他の菌の有無,で評価された。リファンピシン+シプロフロキサシン群(A群)が18人、プラセボ+シプロフロキサシン群が(B群)15人に無作為に分けられた。治療期間は、人工股関節とプレートを使用している人に3ヶ月、人工膝関節を使用している人に6ヶ月抗菌薬が投与された。結果は、A群が12人中12人治療が成功し、B群は12人中7人(58%)が成功し、A群から6人(33,3%)、B群から3人(20%)、両群あわせて9人が研究から脱落した。
この研究では、異物の挿入されたブドウ球菌由来の骨髄炎に対して、リファンピシン+キノロン系の併用が治療に有効ではないかと示唆されている。ただ、A群とB群の脱落した人数を比べるとリファンピシンの副作用の影響も考えられ、この研究の結果からは、リファンピシンとキノロン系の併用療法は短期感染患者に対する1つの治療手段という認識に留めておくべきではないかと思われた。
参考文献:1)レジデントのための感染症マニュアル 第2版 p819-875 青木眞 医学書院
2)Zimmerli W:Role of rifampin for treatment of orthopedic implant-related staphylococcal infections: a randomized controlled trial. Foreign-Body Infection (FBI) Study Group.JAMA. 1998 May 20;279(19):1537-41.
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