注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腎不全患者に対するβラクタム系抗菌薬の投与方法
腎臓は、体液と電解質の恒常性を維持する主要な臓器である。そのため、腎機能の低下によって抗菌薬の薬理作用は大きく変わり、高い血中濃度の持続によって副作用を生じる場合がある。腎不全患者へ高用量のペニシリンを投与したとき、ペニシリンの神経毒性によって、反射亢進やミオクローヌス発作、けいれんを伴う意識障害が起こる。また、イミペネムの投与は、中枢神経系毒性やけいれん発作を起こし、セフェピムによってもけいれん発作が起こることが報告されている。1) そこで、腎不全患者への適切なβラクタム系抗菌薬の投与方法について考察する。
腎不全患者へ抗菌薬を投与するとき、まず腎排泄型とそれ以外を区別する。βラクタム系抗菌薬には、腎排泄型が多い。3)腎排泄型の抗菌薬を投与する場合、適切な投薬の決定には腎機能評価が必要となる。以下のCockcroftの式でクレアチニンクリアランスを計測することで、腎機能評価ができる。女性の場合は、以下の式の値に0.85をかける。
(140-年齢)×体重[kg]
(72×血清クレアチニン[mg/dl])
この値が異常である場合、投与量の調節が必要となる。抗菌薬投与には初期投与と維持投与があるが、抗菌薬の血中濃度を一定まであげることが目的である初期投与は通常通り行い、維持投与の方法を調整するべきである。2)βラクタム系抗菌薬の効果は血中濃度がMICを上回る時間(time above MIC:TAM)に依存し、効果を発揮するためには、TAMが投与間隔の40~50%を占めることが必要である。3)抗菌薬によってMICと体内動態特性は異なるので、抗菌薬の種類と腎不全の重症度に合わせて維持投与量の減量または投与間隔の拡大を行う必要がある。また、患者が血液透析、腹膜透析、持続性動静脈血液ろ過を行っている場合、抗菌薬の種類ごとに定められた投与方法で投与すべきである。2) この調節方法は「The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy」や「イポクラテス」などのアプリを使って、簡単に調べることができる。
また、βラクタム系抗菌薬の中でも、例外としてセフォペラゾン、セフピラド、セフトリアキソンは胆汁排泄率が高いため、常用量で使用できる。これらは一般に透析性の高いものが多いため、透析後の投与がふさわしい。4)
<参考文献>
1)Up to date: Beta-lactam antibiotics: Mechanisms of action and resistance and adverse effects(2014/07/30 access)
2)Brett Gilbert, DO, Paul Robbins, DO,Lawrence L. Livornese Jr, MD, FIDSA :Use of Antibacterial Agents in Renal Failure, Medical Clinics of North America,Volume 95, Issue 4 , Pages 677-702, July 2011
3) William A. Craig: Pharmacokinetic/Pharmacodynamic Parameters: Rationale for Antibacterial Dosing of Mice and Men, Clin.Infect.Dis. 26:1-10,19
4)深川雅史、吉田裕明、安田隆編集「レジデントのための腎疾患診療マニュアル」(医学書院)
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