注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「IVCフィルターの適応と合併症」
下肢静脈血栓症は、形成された血栓が下大静脈を通って、肺動脈に詰まり肺血栓塞栓症(PE)を引き起こす危険が非常に高い。そこで、1973年にLazar Greenfield氏らによって改良し、つくられたのが、IVCフィルター(the stainless steel Kimray-Greenfield filter)である。そして1981年に、このフィルターを用いた156症例が報告された。このフィルターを下大静脈内に留置することで血栓が肺へ運ばれるのを防ぐことができる。
■適応
適応は「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」に掲載されている。まとめると①抗凝固療法が禁忌の場合、②抗凝固療法にもかかわらずPE再発や深部静脈血栓症の拡大を認める場合、③抗凝固療法による合併症がでた場合、である。さらに循環、呼吸状態が悪化しPEが致命的となる場合、である。
■合併症
合併症には、穿通部位に関しては、血腫、穿刺部血栓、空気塞栓がある。フィルター自体については、下大静脈以外の分枝静脈への留置、心臓内や肺動脈への移動、不完全開大などがある。また深部静脈血栓症再発は5.9~32%、下大静脈血栓形成は1~11.2%であったが、超音波検査を行うと穿刺部血栓は16~30.2%、下大静脈血栓は5.3~17.5%であった。その他、フィルターの移動や破損、下大静脈の穿孔なども指摘されている。
■まとめ
実際のところ、IVCフィルターについてのRCTはPREPIC study一つしか行われていない。これは1998年に発表され、2005年に8年間フォローアップした結果が発表されている。400例のDVT症例がIVCフィルターを留置するかで割り付けられた。ただし抗凝固療法が禁忌の場合は除外されている。すなわち抗凝固療法だけの群と、抗凝固療法とIVCフィルターを留置した群を前向きに調査した。すると8年間のフォローアップで、PEはフィルター群で少なく15.2%と6.2%、しかし深部静脈血栓症では28%と36%と多かった。さらに重要な死亡率に至っては差がなかったのである。この程度のエビデンスしかないが、米国では食品医薬品局(Food and Drug Administraion:FDA)によってIVCフィルターが認可され、新しいフィルターが開発されているのである。
IVCフィルターに有用性がなく、むしろ有害かもしれないということを考えると、繰り返しRCTを行いデータの蓄積が必要であろう。しかしIVCフィルターのメーカーにとって、繰り返しRCTを行うメリットはない可能性が高く、なかなか進まないかもしれない。現状ではIVCフィルターを使用するかどうかの判断は難しいと考える。
■参考文献
・肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)(2009年改訂版)p31-34
・Vinay Prasad, MD; Jason Rho, MD; Adam Cifu, MD. The Inferior Vena Cava Filter. How Could a Medical Device Be So Well Accepted Without Any Evidence of Efficacy? JAMA Intern Med. 2013;():1-3. doi:10.1001/jamainternmed.2013.2725.
・Up to date: Placement of inferior vena cava filters and their complications(2014/07/15 access)
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