注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、（我々には若干異論があったとしても）あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
CD4陽性Tリンパ球減少患者でのクリプトコッカス症について
クリプトコッカス症は、クリプトコッカス（Cryptococcus neoformans）による、亜急性または慢性髄膜炎を呈する深部真菌症である。吸入感染で肺にも多彩な病変をつくるが、多くは無症状に経過する。また、腎臓、眼、前立腺、骨などに病巣を作ったり、皮膚に痤瘡様病変や潰瘍、皮下腫瘤を作ったりすることがある。主にAIDS患者、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤使用者、肝硬変・悪性リンパ腫など細胞性免疫不全のある患者にみられるが、時に基礎疾患のない人にも起こり得る1)。
HIV感染症（特に後天性免疫不全症候群；AIDS）ではCD4陽性Tリンパ球減少をきたし細胞性免疫が低下するため感染のリスクが上がるが、他にも、伝染性単核球症・B型肝炎などのウイルス感染、先天性免疫不全、結核、サルコイドーシス、副腎皮質ステロイド投与、特発性CD4陽性Tリンパ球減少症（ICL）などでもCD4陽性T細胞リンパ球の減少が起こる2)。
ここでは特発性CD4陽性Tリンパ球減少症（ICL）患者のクリプトコッカス症について述べる。ICLはCD4陽性Tリンパ球数が300個/mm3未満、あるいは全Tリンパ球中CD4陽性のものが20%未満の所見を繰り返し、HIV感染や他のCD4陽性Tリンパ球を減少させる原因の考えられない症候群であると定義されている5)。クリプトコッカス症の治療においては、HIV感染者や臓器移植後の患者の治療レジメンは、重度の免疫抑制状態として他のレジメンとは独立して示されている。ICL患者の治療方法については、非HIV感染者、非臓器移植者のカテゴリーに分類されている3)。
一般的に非HIV感染者のクリプトコッカス症はHIV感染者に比べて不良であるが4)、ICL患者は治療成功の割合が高い可能性が示されている。Zoniosらの研究によると、1991年から2005年のクリプトコッカス症を発症したICL患者46人のうち、死亡は4人（8.6%）、治癒または改善したのは42人（91.4%）、再発したのは6人（13%）という結果が得られた5)。Zoniosらはこの結果について、1980年から1989年に行われたRozenbaumらの研究と比較し、良好な結果を得られたとしている。Rozenbaumらの研究では、免疫抑制のない状態で中枢神経系にクリプトコッカス症をきたした患者の死亡率は17人/44人の38.6%であった6)。
ICLを対象とした研究数は少なく、上述の報告に関しても直接比較が行われたものではないが、ICL患者のクリプトコッカス症は予後が良い可能性もあり、今後の研究が待たれる。
参考文献
1) 谷田憲俊著『感染症学』第3版（2005）診断と治療社
2) 古澤新平、長澤俊郎、檀和夫著『図解 血液学テキスト』初版（2001）中外医学社
3) Perfect JR，et al：Clinical Practice Guidelines for the Management of Cryptococcal Disease：2010 Update by the Infectious Diseases Society of America．Clin Infect Dis．2010 Feb 1；50（3）：291-322
4) Ecevit IZ, et al. The poor prognosis of central nervous system cryptococcosis among nonimmunosuppressed patients: a call for better disease recognition and evaluation of adjuncts to antifungal therapy. Clin Infect Dis 2006; 42:1443–1447
5) Zonios DI, et al：Cryptococcosis and idiopathic CD4 lymphocytopenia. Medicine (Baltimore) 2007：78-92
6) Rozembaum R, et al：Clinical epidemiological study of 171 cases of cryptococcosis. Clin Infect Dis. 1994；18：369-380
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