注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
誤嚥性肺炎の予防
誤嚥性肺炎は、意識障害、嚥下困難、神経障害などのバリアの物理的な崩壊により誤嚥の危険因子を持つ患者においてみられる肺炎である。多くの場合、危険因子を持つ患者に対して介入を行うことで誤嚥のリスクを減らすことが出来る。そこで誤嚥性肺炎の予防法について考察する。
嚥下リハビリテーション•口腔ケア : 誤嚥の危険因子がある患者に対して最初に行われる予防であり、摂食方法、食事内容の指導を行う。また、2007年のE,Y,Chanらの報告では、口腔内の衛生管理を行った群は、衛生管理を行っていない群に比較して有意にVAPの発生率が低い(relative risk 0.56,95%CI 0.39 to 0.81)(2)。VAPの一因が口腔内の微生物の誤嚥であることを考えると、口腔内の衛生管理は誤嚥性肺炎の予防に重要であることを示唆している。
経管栄養 : 食事内容•方法の変更や摂食指導を受けているにも関わらず、誤嚥を繰り返す患者に推奨される。経管栄養の方法として胃瘻と経鼻チューブが挙げられる。経皮内視鏡的胃瘻造設を受けた患者と、経鼻チューブを留置した患者を比較すると、胃瘻による栄養で誤嚥性肺炎が減らせれる(1)、もしくは差異は無い(3)という報告がある。また脳卒中による嚥下障害のある患者では、経口摂取と比較して胃瘻による栄養を受けた患者の方が有意に誤嚥性肺炎のリスクが低いという報告があるが、痴呆患者においては経口摂取と経鼻チューブ、胃瘻の誤嚥発生率に関しては報告が無いため(4)慎重な判断が必要である。経管栄養時の体位に関して、人工呼吸下にあり経鼻チューブより栄養を受けている患者を対象にし、仰臥位の群と上体を45°起こす群を比較した小規模な研究では、前者の方が胃内容物の気道内への侵入が多いという結果が出ている。(5)。
薬剤 : 脳卒中もしくは一過性脳虚血発作の既往をもつ患者6105人を対象にACE阻害薬であるペリンドプリルを投与した群と、プラセボを投与した群における肺炎の発生率を比較した報告では、全被験者において統計的に有意差は認められなかったが、アジア人に限ったサブグループでは前者(26/1176)が後者(48/1176)よりも有意に発生率が低い結果が出た。(relative risk reduction 47%;p=0.009)(6)。D,Caldeiraらの報告では、ACE阻害薬を服用している群はコントロール群、ARBsを服用している群と比較して有意に肺炎のリスクが低く、その傾向は脳卒中の既往を持つ患者とアジア人で顕著であるという結果が出ている(7)。また漢方の一種である半夏厚朴湯は嚥下機能を回復させる報告があり、PD患者に対し半夏厚朴湯を4週間投与し、コントロール群と嚥下反射に要する時間を比較したところ、前者が2.27±0.54secであるのに対し後者は3.66±0.98であり有意差が認められた(p<0.0001)。(8)PPIは肺炎のリスクファクターと指摘されており、Shoshana,J,Hらの報告では、PPI投与群と非投与群のHAPの発生率は4.9% vs 2.0% ; OR2.6 ; 95%CI,2.3 to 2.8であり、誤嚥を起こし得る患者での使用は避ける必要があると考える。(9)
【参考文献】(1)青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 医学書院 (2)E,Y,Chan,etal, Oral decontamination for prevention of pneumonia in mechanically ventilated adults: systematic review and meta-analysis,BMJ2007;334:889 (3)Paul E Marik ,Aspiration Pneumonitis and Aspiration Pneumonia,N Engl J Med 2001;344:665-671 (4)Mark H DeLegge, Gastrostomy tubes:Uses,patient selection, and efficacy in adults, Up To Date (5)M,Orozco levi ,Semirecumbent position protects from pulmonary aspiration but not completely from gastroesophageal reflux in mechanically ventilated patients, Am J Respir Crit Care Med. 1995 Oct;152:1387-90 (6)T Ohkubo et al ,Effects of an Angiotensin converting Enzyme Inhibitor-based Regimen on Pneumonia Risk, Am J Respir Crit Care Med.2004 May 1;169:1041-5. (7)D,Caldeira et al ,Risk of pneumonia associated with use of angiotensin converting enzyme inhibitors and angiotensin receptor blockers: systematic review and meta-analysis.BMJ 2012 Jul 11;345:e4260 (8)K,Iwasaki etal, The effect of the traditional Chinese medicine,”Banxia Houpo Tang”on the swallowing reflex in Parkinson’s disease, Phytomedicine 1999 May;6(2):103-6. (9) Herzig SJ etal, Acid-suppressive medication use and the risk for hospital-acquired pneumonia, JAMA. 2009 May 27;301(20):2120-8
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