注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート
粟粒結核の診断
粟粒結核はMycobacterium tuberculosisの血行性伝播により起こる。粟粒結核は初感染の進行か古い播種性病変の再燃の結果起こる。粟粒結核の臨床症状は非特異的かつ極めて多彩で侵された部位によって異なる。発熱、寝汗、体重減少、食欲低下が発症時の症状として多く、それぞれの感度は発熱(91%)、寝汗(50%)、体重減少(47%)食欲低下(16%)である。咳(感度53%)や痰(25%)などの呼吸器症状が随伴することがある。(※1)ただし、粟粒結核の診断は非常に難しいため、粟粒結核と診断された患者の中でのデータである。粟粒結核はその臨床像の非特異性ゆえにしばしば見落とされる。ある調査ではアメリカの粟粒結核の患者のうち、およそ20%が死後に診断されているということを示している。(※2)検査所見としては汎血球減少や胸部X線での肺中に散らばった網状結節性の陰影、CTでの播種性の小瘤影が見られる。しかしX線所見は感染後数週間経過しないと表れず、またHIV感染患者では正常であることもある。CTでは感度は高いが特異度は低い。
まず結核の診断は患者から得られる材料からM.tuberculosisの分離および同定がなされるか、またはPCRを用いた核酸増幅検査のDNAの塩基配列の同定によりされる。肺結核の場合、喀痰材料からM.tuberculosisを同定できればよいが、粟粒結核では肺からM.tuberculosisが同定されるとは限らない。そのため広範な臓器での検索が必要になる。
粟粒結核の診断ではなにより第一に病歴や身体診察から疑うことが大切である。粟粒結核はHIV感染者や免疫抑制剤(ステロイドなど)使用者など細胞性免疫の低下した患者に頻度が高い。そのような患者で寝汗や体重減少などの消耗を伴った発熱をきたす場合に強く疑われる。粟粒結核を疑った場合、肺病変の評価、胸部X線、抗酸性喀痰塗沫、培養検査、抗酸性血液培養、可能であれば分子テスト(PCR)が行われる。血液、喀痰、尿に対して行うPCRは粟粒結核の迅速な診断に非常に有用である。喀痰が得られない場合は気管支鏡検査や胃分泌物で培養を行う。(気管支鏡検査は複数箇所で抗酸菌が見られないときにも行う)その後に肺、骨髄、心膜、リンパ節、骨、関節、腸、肝、脳などの臓器から侵襲性などを考慮し、yieldの高い臓器での生検を行い、その標本に対して培養検査、組織病理検査を行い、確定診断を行う。生検標本には組織病理学的に乾酪性肉芽腫病変を認める。しかし、粟粒結核は診断が非常に難しく、診断的治療のみが診断手段であることもある。
以下に各臓器での粟粒結核での培養・生検陽性率を示す。(※3)
喀痰検査 |
気管支鏡検査 |
胃液検査 |
髄液検査 |
尿検査 |
骨髄検査 |
肝生検 |
リンパ節生検 |
41.4% |
35.7% |
61.1% |
20.5% |
32% |
58.1% |
88.9% |
90.3% |
参考文献
ハリソン内科学
内科診断リファレンス
UpToDate clinical manifestations, and treatment of extrapulmonary and miliary tuberculosis
※1 Ann Saudi Med.2001;21(1-2):16-20(内科診断リファレンスより)
※2 Chest. 1991;100(3):678 Division of Tuberculosis Elimination, Centers for Disease Control, Atlanta
※3 Indian J Med Res.2004 Oct;120(4):316-53(内科診断リファレンスより)
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