注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
ステロイドによる免疫抑制状態での感染症とその診断
ステロイドの免疫系への影響
ステロイドホルモンは転写因子としての特定の遺伝子発現を調節することにより、多様な作用を発揮する。ステロイドを一定量長期投与すると、その免疫抑制により感染のリスクが上がる(易感染性)。その機序には以下のようなものがある。ステロイドはT細胞に作用してIL-2、INF-γの分泌を抑制し、またマクロファージによるIL-1分泌も抑制する。さらにヘルパーT細胞、B細胞を抑制し抗体産生を低下させる。一方、ステロイドは単球、マクロファージの炎症局所への浸潤を抑え、さらにホスホリパーゼA2抑制蛋白であるリポコルチンの合成を促し、プロスタグランジン、ロイコトリエン産生を低下させて抗炎症作用を発揮する。このようにしてステロイドは細胞性免疫を障害する。
実際、ある研究ではリウマチ患者におけるプレドニゾロン使用例では、未使用例と比較し、明らかに肺炎による入院数が増加した。(○Prednisone <5 mg/day HR 1.7 p < 0.001 95%CI 1.1-1.6 ○ >5-10 mg/day HR 2.9 p < 0.001 95%CI 2.3-2.7 ○ >10 mg/day HR 2.9 p < 0.001 95%CI 2.3-2.7)
ステロイド使用中に問題となる感染症
細胞性免疫障害で問題となるのは、細胞内に寄生する微生物である。その例を以下の表に挙げる。
ウイルス |
細菌 |
真菌 |
原虫・寄生虫 |
herpes simplex virus varicella zoster virus cytomegalovirus EB virus adenovirusなどの 呼吸器系のウイルス |
Listeria Legionella Mycobacterium Nocardia Salmonella |
Cryptococcus spp. Pneumocystis jirovecii Aspergillus spp. Candida spp.
|
Toxoplasma gondii Strongyloides Cryptosporidium Isospora belli |
診断と必要な検査
感染症の診断・治療に重要なのは原因微生物の診断であるが、細胞性免疫障害の患者の診断は通常の感染症の診断よりも難しい。診断にはまず、発熱が具体的にどのように始まったか、家族内での病気、免疫抑制の理由となる原疾患、そして免疫抑制療法の使用量と期間などを含めた詳細な病歴が必要である。次に検査であるが、呼吸器を例とすれば、喀痰のグラム染色や喀痰培養、喀痰中の抗酸菌検査(抗酸菌感染症)、尿中抗原検査(肺炎球菌・レジオネラ)、血清検査(マイコプラズマ・クラミジア等)を行う。しかし、細胞性免疫が傷害されている場合、細胞内に寄生している原因微生物が多く、喀痰や尿に原因微生物がいないために適切な検体の採取が困難な場合もある。そのため、細胞性免疫障害患者における感染症の診断では、感染臓器や器官の生検を行い、組織を用いて原因微生物を検出するのが有力な方法となることもある。
このように、細胞性免疫障害の患者では起炎菌の同定に時間と手間がかかる。ただし、一度治療するとなれば毒性の強い薬剤が多いことから、上記の起因菌等を考慮しながら確実に診断をつけることが重要である。緊急の対処が求められるのは、①頭痛や錯乱などの中枢神経症状がある場合(クリプトコッカスやリステリア)②中心静脈ライン感染症(グラム陽性球菌)③胸部X線で浸潤影がある場合などである。細胞性免疫障害では問題となる微生物の種類がウイルスから原虫まで多岐にわたるため、上記の①~③を除いてエンピリカルな治療をルーチンに行うべきではない。
[参考文献]
1) レジデントのための感染症マニュアル 第2版 医学書院
2) 実地医療のためのステロイドの上手な使い方 永井書店
3) 病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 医学書院
4) 感染症診療スタンダードマニュアル 第2版 羊土社
4) <Up to date> Glucocorticoid effects on the immune system
5) Treatment for rheumatoid arthritis and the risk of hospitalization for pneumonia: Associations with prednisone, disease-modifying antirheumatic drugs, and anti–tumor necrosis factor therapy ARTHRITIS &RHEUMATISM Vol.54, No.2, February 2006, pp 628-634
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