注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腹腔内膿瘍に対するドレナージの必要性と方法
膿瘍は限られた組織間隙における膿の貯留であり、通常は細菌感染により引き起こされる。[1]症状として局所痛、圧痛、熱感、腫脹、全身症状などがあり、一般的に治療は外科的排膿と抗菌薬の投与により行われる。[2]
腹腔内膿瘍の治療の場合においても、外科的排膿は効果があるとされている。2009年のIDSAの腹部感染症治療のガイドラインによると、適切な感染源への処置として、腹腔内汚染を進行させる感染物を除去することは、解剖学的・生理学的な機能を回復させることが可能で、腹腔内感染症のほぼ全ての患者に推奨されている。[3]また、外科的排膿が行われない腹腔内膿瘍の死亡率は45–100%近いとされているので、[2]腹腔内膿瘍に対する排膿は行われるべきだと考えられる。
現在、腹部膿瘍を除去する方法としては、CTガイド下あるいは超音波ガイド下経皮的ドレナージと外科的開腹術によるドレナージの2種類が主に行われている。ではどのような膿瘍に対してどちらの手法を選択するべきなのであろうか。
経皮的ドレナージの利点としてまず考えられるのは、全身麻酔や開腹をする事なく排膿できるので、低侵襲であるということである。2009年のIDSAの腹部感染症治療のガイドラインにおいても、可能であれば膿瘍や他の明確に限局している液体貯留の経皮的ドレナージは外科処置より好まれるとされている。[3]適応は以下のような場合が挙げられる[2]
・膿瘍が十分に成熟しており、内腔が1つのみ
・解剖学的に安全な経皮的ドレナージが可能である
・放射線専門医、外科医のバックアップがあり、外科的ドレナージに移行可能
外科的開腹術によるドレナージを行うのは経皮的ドレナージが難しい場合となる。適応は以下のような場合が挙げられる[2]
・膿瘍が複数存在する
・膿瘍へのアプローチが難しく、解剖学的に安全なドレナージが難しい
・他に外科的処置を必要とする病変が存在する
・経皮的ドレナージが失敗した
具体的な経皮的ドレナージが難しい場所としては骨盤内部・心窩部・膵臓周囲などが挙げられ、[4]外科的処置を必要とする病変としては腸管と膿瘍の瘻孔などが挙げられる。[2]
以上より、腹腔内膿瘍に対してのドレナージは効果があると考えられ、安全に行えるのであれば経皮的ドレナージを優先的に選択し、不可能であるならば外科的開腹術によるドレナージを行うべきであると考えられる。また、2004年のMaher MMらの報告によれば、経皮的ドレナージが難しい場所への対処として、経直腸ドレナージや経腟ドレナージなども選択肢の1つとして挙げられている。[4]今後の開腹を必要としない低侵襲な新たな手技の発見が期待される。
[1] 標準病理学 第4版 坂本穆彦 北川昌伸 仁木利郎 医学書院
[2] レジテントのための感染症診療マニュアル 第2版 青木眞 医学書院
[3] Diagnosis and management of complicated intra-abdominal infection in adults and children: guidelines by the Surgical Infection Society and the IDSA. Solomkin JS1, Mazuski JE, Bradley JS, Rodvold KA, Goldstein EJ, Baron EJ, O'Neill PJ, Chow AW, Dellinger EP, Eachempati SR, Gorbach S, Hilfiker M, May AK, Nathens AB, Sawyer RG, Bartlett JG
[4] The inaccessible or undrainable abscess: how to drain it. Maher MM1, Gervais DA, Kalra MK, Lucey B, Sahani DV, Arellano R, Hahn PF, Mueller PR. Radiographics. 2004 May-Jun;24(3):717-35.
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