シリーズ 外科医のための感染症 37. 脳外科篇 脳膿瘍、脳占拠性病変の診断・治療の大原則
脳膿瘍は厄介な病気です。慢性の発熱としてプレゼンすることもありますが、急性の経過をたどる例も案外珍しくありません。熱、頭痛、神経所見の3徴全部が認められるのは2割の患者だけです。
脳膿瘍の存在診断「そのもの」はCTやMRIが進歩して、とても容易になりました。膿瘍性疾患そのものが見逃されるリスクは、ほとんどないといってもいいくらいです。問題は、「どんな」脳膿瘍か、です。これはなかなか難しい。
細菌性脳膿瘍の場合、例えば脳外科手術の合併症として発症することもあります。外傷後に頭蓋底から細菌が侵入して脳膿瘍を形成することもあります。細菌血症の成れの果てとして、「頭に飛んで」膿瘍を作ることもあります。とくに、感染性心内膜炎IEの合併症が有名です。脳膿瘍を見たらIEを、IEを見たら脳膿瘍を考えるのが定石です。肺のノカルジア症も脳膿瘍を合併しやすく、ルーチンで頭の画像を撮ることが推奨されています。自由寄生性アメーバも脳膿瘍を起こします。コンタクトレンズからのアメーバ眼内炎や、湖水でのアメーバ感染などが要注意です。
鑑別疾患も多いです。脳トキソプラズマ症、リンパ腫、有鉤嚢虫症、脳腫瘍、脳転移、結核腫、クリプトコッカス腫など。選挙制病変はSPECTやPETで評価することもありますが、最終的には脳生検が必要となることもあります。脳生検はハードルの高い検査ですが、これで診断ができると得られるものは大きいので、どうしてもというときには脳外科の先生に相談します。もちろん、上記の鑑別疾患の背景にあるものも大事です。CNSリンパ腫を疑えば、HIV検査は必須です。HIV陽性の患者で脳占拠性病変があれば、リンパ腫も考えます(もっとも、この場合は鑑別が多いので、リンパ腫一点買いも危険ですが)。
脳膿瘍の治療は長期的抗菌薬(6~8週間)の使用と、外科的ドレナージ、という膿瘍治療の基本を踏襲します。ペニシリンG、セフトリアキソン、メトロニダゾール、セフタジジム、メロペネム、バンコマイシンなどが選択肢になります。セフェピムは脳症を起こすリスクがあり、セファゾリンは脳に高濃度を達成できないため、普通は使いません。
まとめ
・脳膿瘍の診断は難しくない。難しいのは、「どんな」脳膿瘍かを看破することだ
・膿瘍ではない、膿瘍に見える鑑別診断に気をつける。
・治療はドレナージと長期抗菌療法。
文献
Brouwer MC, Coutinho JM, van de Beek D. Clinical characteristics and outcome of brain abscess: systematic review and meta-analysis. Neurology. 2014 Mar 4;82(9):806–13.
Southwick FS. Treatment and prognosis of bacterial brain abscess. UpToDate last updated Apr 10, 2014.
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