シリーズ 外科医のための感染症 28. 耳鼻咽喉科篇 耳鼻科緊急事態
耳鼻科関連の感染症で、いくつか緊急事態(エマージェンシー)があります。いずれも耳鼻科の先生のお世話にならないと救命するのは難しいケースです。それについて取り上げましょう。
急性喉頭蓋炎
ご存知、救急エマージェンシーの代表格、急性喉頭蓋炎(acute epiglotitis)です。インフルエンザ菌が原因のことが多いので、Hibワクチンで近い将来「そういえば、あんな病気あったねえ」と遠い目をして昔話ができるといいですが。
診断には少しクセがあり、呼吸困難が露骨にあるケースは少ないです。窮屈そうに顔を全面に突き出して、涎なんて出している子どもが「やばい」状態です。待合室にこういう患者さんがいたらすぐにトリアージします。親指サイン、ペンシルサインといった画像所見は国家試験的には有名ですが、こんなものを撮っている暇があればさっさと耳鼻科の先生をおよびし、内視鏡的に診断していただき、速攻で気道確保するべきでしょう。3世代セフェム(セフトリアキソンなど、、、もちろん、経口薬はアウトです!)を使うことが多いですが、感染の大きさそのものは大したことはないので、気道確保さえしっかりやっておけばそれほど怖い感染症ではありません。もっとも、この「気道確保さえ」というのが難しいのですが。
悪性外耳道炎
緑膿菌による重症型の外耳道炎です。糖尿病の患者に多い感染症で、周辺の乳突蜂巣、頭蓋底から中枢神経などに波及することがあります。糖尿病患者などの免疫抑制者が激しい耳痛で受診し、耳たぶを引っ張ると痛みが強くなる(中耳炎との違い)、そしてスワブで外耳をこすると緑っぽいそれほど臭くない膿が認められます。グラム染色で大量の細いグラム陰性菌を見つければ診断です(もちろん、培養検査も出しますが)。治療は大量の抗緑膿菌作用を持つ抗菌薬を使いつつ、周辺組織のデブリドマンを行います。
ムコール症
こちらも糖尿病患者で血糖コントロールが悪い場合、ときに鉄キレート剤のデフェロキサミンが投与されている患者に見られる重症真菌感染症で、典型的には副鼻腔炎の症状で発症します。
ムコール症は接合菌による感染症の総称ですが、クモノスカビ(Rhizopus)、リゾムコール(Rizomucor)、アブシディア(Absidia)、バシディオボールス(Basidiobolus)などからなります。あと、ムコールと表記する場合とムーコルと表記する場合があるようですが、まあ、どうでもいいです、そこは。
副鼻腔から眼窩や脳など周辺臓器に進行していく非常に恐ろしい真菌感染症です(鼻脳型)。βDグルカンは典型的に陰性で、病変部の生検で直角にて節のない、、、つまりアスペルギルスとは違う糸状菌を見つけたら診断できます。
治療はバカスカ抗真菌薬(アムビゾーム=リポゾーマル・アムホテリシンBなど)を使いながら、徹底的にデブリをします。ただし、予後はあまりよくありません。しかし、外科的治療を加味することで、なんとか死亡率を3割程度まで減らすことが可能ですから、これは本当に耳鼻科頼みの疾患です。
ちなみに、アスペルギルスも重症型の副鼻腔炎を起こしますが、この場合はβDグルカンやガラクトマンナン抗原が上昇することが多いです。この場合は治療は(アムホテリシンBではなく)ボリコナゾールが中心になります。
副鼻腔病変があるときは、他にもNK細胞リンパ腫やウェゲナー肉芽腫症、IgG4関連疾患なども鑑別にあがります。どれも手強いですね。そういう意味でも、生検による確定診断はとても重要です。
「IgG4関連疾患」関連疾患かもしれない、TFILというものもあります。我々も副鼻腔ではないですが、一例経験しました。先日、急逝した日下荘一先生の遺稿になってしまいました(Kusaka S et al. Tumefactive fibroinflammatory lesion presenting with head and neck fibrosclerosing lesions and orbital pseudotumors: a case report. Journal of Medical Case Reports 2013, 7:260 http://www.jmedicalcasereports.com/content/7/1/260)。
文献
Gupta S, Koirala J, Khardori R, et al. Infections in diabetes mellitus and hyperglycemia, Infect Dis Clin N Am 2007, 21: 617-638
岩田健太郎、土井朝子. 糖尿病患者の発熱へのアプローチ. In. IDATENセミナーテキスト編集委員会編. 病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方. 東京. 医学書院, 2011. p. 136-143
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