シリーズ 外科医のための感染症 コラム 終末期医療と感染症について
既に述べたように、胆道感染は閉塞を解除することがもっとも重要です。しかし、膵癌や胆管癌が進行した場合、あるいは肝細胞癌が肝内胆管を圧排した場合など、閉塞がどうしても解除できなくなってしまうことがあります。
この場合は胆道感染は難治性になり、またたとえ治ってもすぐに再発します。繰り返す発熱と繰り返す抗菌薬使用で原因菌はどんどん耐性化していきます。その結果、患者は隔離され、接触感染予防策をとられたりします。カルバペネムなども耐性化し、未承認薬のポリミキシンBやコリスチンなど、比較的毒性が強い抗菌薬を用いざるを得ないこともあります。
こういうとき、大事なのは、「目標を明白にする」です。患者の、家族の、主治医の、そして感染症屋たちが異なる思惑でまったく噛み合ない診療をしていてはいけません。もはや、生命予後を改善することはあまり期待できません。では、何を目標に感染症を治療するのか。そこに感染症があるから、治療するのか。熱の症状をとって苦痛を軽減したいのか。「大きな話」をすることが必要になります。
場合によっては治療効果が下がっても、(緩和ケア病棟で使いやすい)経口抗菌薬だけを用いたり、あるいは血液培養をとるのも止める、という方法だって可能です。血液培養は感染症の診断と原因微生物の検出に必須な検査ですが、その感染症の治療と原因微生物の検出そのものが相対的な重要性を失ってしまうことすらあるのです。場合によっては、鎮痛と苦痛軽減を目的として、モルヒネやステロイドが選択肢となることもあります。
とにかく、方法のルーチン化は禁物です。発熱、血液培養、血液検査、抗菌薬、、、といった一意的な方法だけを覚えてしまい、話をルーチン化してしまい、「なぜそうするのか」を忘れてしまうと、感染症屋は単なるばい菌屋、単なる抗生物質屋になってしまいます。ときに、主治医も目標を見失っていたり、はっきりできなくなっているときもあります。そういうときにも、患者や家族との対話を促したり、チームで目標の再設定をしてもらうよう働きかけることも感染症屋の大事な仕事です。感染症屋はミクロな微生物を扱いますが、その目線はつねに「大きな話」に向けられていないといけないのです。
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