シリーズ 外科医のための感染症 コラム 感染症専門医について
現在、日本には感染症に関する医師の資格がたくさん存在(乱立?)しています。
以前、ご紹介した英検4、、、じゃなかった、Infection Control Doctor (ICD) (ICD制度協議会)。
日本感染症学会認定感染症専門医、および指導医。
日本化学療法学会の抗菌化学療法認定医、および指導医。化学療法学会には臨床試験指導医という資格もあります。
他にも日本エイズ学会の認定医、指導医とか、日本結核病学会の結核・抗酸菌症認定医、指導医とか、日本外科感染症学会の外科周術期感染管理医とか、もうお腹いっぱい、って感じです。
日本の専門医制度は諸外国とは異なり、学会が認定する資格がほとんどです。学界費を払い、学会の主宰する会合に参加し、と学会にいろいろ貢ぐことが資格認定の前提になります。岩田は学会活動はそんなに得意ではないので、上記のうち認定医や指導医資格を取れないものもいくつかあります。エイズ学会とか、参加証保管し損なって資格取れませんでした(プログラムに演者として出てるんだから、参加してるに決まってんでしょ、と申し上げましたがすげなく断られました)。
しかし、いくら資格取得が世のブームだからといって、こんなに資格が乱立していちゃダメだろう、と思います。これらをバラバラにとるのは手間もお金もかかりますし、書類作業なども面倒くさすぎます。
ぼくが提言しているのは、以下のとおり。
1. 専門医資格を学会から切り離し、利益誘導を止めさせる。
もちろん、専門医試験などは学会の専門家が手助けしなければ作成できませんが、「学会費を何年払う」とか「学会で何回発表する」といった「貢ぎ物」は止めさせるべきです。
2. 臨床研修の必須化と質の担保。
感染症学会は専門医資格の取得に臨床研修を義務化しています。しかし、岩田らの調査によると、多くの認定施設では実際には感染症臨床研修を行っておらず、またその内容もバラバラでお粗末な研修をしているところ、実際には全然研修を行っていない、、、研修医放置プレイ状態の施設もありました。
Iwata K. Qualitative and quantitative problems of infectious diseases fellowship in Japan. Int J Infect DIs. 2013; 17: e1098-e1099 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1201971213002440
Iwata K et al. Actual status and future prospects of Infectious Diseases Fellowship in Japan: a qualitative study. presented at 16th International Congress on Infectious Diseases, 2014 Cape Town, South Africa)。
3. 基礎領域学会を減らす。
感染症学会専門医取得には基礎領域学会専門医(認定医)に認定されていることが必要です。
しかし、この基本領域学会がとても多いのです。
日本医学放射線学会、日本眼科学会、日本救急医学会、日本外科学会、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本耳鼻咽喉科学会、日本整形外科学会、日本精神神経学会、日本内科学会、日本脳神経外科学会、日本泌尿器科学会、日本皮膚科学会、日本病理学会、日本麻酔科学会、日本リハビリテーション学会、日本臨 床検査医学会
これに対して、アメリカでは感染症専門医になるには内科か小児科の専門医であることが必要です。
まあ、「ここは日本だ、アメリカじゃない」という批判はよしとしても、少なくとも
・全身診ることができる。臓器に特化しない感染症を診療できる。
ことを考えると、ぼくなら特定の臓器系学会はアウト、それと患者を診ない場合もアウトだと思います。
昔、関東某地域の泌尿器科の先生に、
「肺炎くらい、診れますよ。ぼくは尿路感染はたくさん経験してますから」
と言われて絶句したことがあります。
「膀胱癌くらい診れますよ。肺癌、たくさん経験しましたから」
なんて呼吸器外科の先生に言われたら、絶句するでしょ。まあ、この泌尿器科の先生が超まれな、極めて例外的な存在であることを願うばかりです。
4. 専門医資格を階層化する
とにかく、各学会にお金を払って資格を取って、そしてそれを個別に更新していくのは効率が悪すぎます。ぼくはICD, 感染症学会専門医および指導医、抗菌化学療法指導医資格を持っていますが、これらを
感染症専門医レベル4〜1
みたいに階層化し、どれか一つの資格だけを更新、または昇進するようにすればよいのです。正直、ICD資格の更新のために毎度毎度「当たり前」の話を聞かされるのは、プロとしてはとても苦痛です。レベルにあった資格更新だけに絞った方が効率的です(お金もうけはできなくなりますけどね)。
基本的な感染管理、エイズや結核診療、術後感染などは感染症専門医なら「当たり前」だと思うので、各学会の各論的な資格も不要だと思います。まあ、どうしてもというのなら、add onとして設け、全体のコヒーレンス(一貫性)を保った方が分かりやすいし、資格も取得、保持しやすいです。
5. 専門医試験を難しくする
現状の試験は簡単すぎます。ICDみたいに試験がないのは論外です。これでは専門家の能力は担保されません。
みたいなのが、岩田の提言です。厚生労働省や日本専門医制評価・認定機構ががんばっていますから、各学会は己のことばかり考えて足を引っ張り、全体の質を落とすようなことがないようにしてほしいものです。
ちなみに、臓器専門医締め出そうというわけではありません。神戸大学病院感染症内科でも今年耳鼻科の先生を後期研修医に採用しました。ただし、「全身を診ることができる」が最低条件なので、総合内科を1年間ローテートしてもらっています。能力さえ担保できていれば、何かの先生が感染症のプロになろうとかまいません。問題は、その「担保」ができていない現状にあるのです。
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