予言しておく。このDVDは「家庭医が解説した予防接種」というキャッチフレーズでコメント・評価されることであろう。このことは、「家庭医が予防接種を評価、解説することが新規であり、珍奇である」という前提がほのめかされている。
しかし、ぼくはそうは書かない。家庭医が予防接種というコンテンツで教材を作るのは、「当たり前」だからである。
アメリカにおける予防接種の大きな方針を決めているACIPの現時点での議長は家庭医である。15名いるACIPメンバーはその他、小児科医や疫学専門家、公衆衛生の専門家によって占められている。ワクチン「運用」のエキスパートとはこういう人たちなのだ。日本の予防接種・ワクチン分科会のメンバーもずいぶん様変わりしたが、まだ家庭医は入っていない。守屋先生にはぜひメンバーに加わっていただきたいものである。いずれにしても、「家庭医なのに予防接種」なのではない、「家庭医だからこそ、予防接種のコンテンツ」の伝道者としてふさわしいのである。ワクチンにまつわる不安との対峙の仕方、コミュニュケーションの取り方などは、むしろ「古典的なワクチン専門家」の苦手とするところだろう。
日本における予防接種のコンテンツはややこしい。「しくみ」を解説するコンテンツ(予防接種法などの解説)、「ワクチン開発」を解説するコンテンツ(日本はこんなに素晴らしい!)、そして「ワクチンの臨床学的評価」を解説するコンテンツがバラバラに存在し、それぞれに「ずれ」があるからである。本来、「しくみ」と「科学」は一致しているべきだが、日本の場合は「効くのに使えない、使いにくい」という「しくみ」と「科学」のずれは常態的だ(ま、だいぶましにはなりましたが)。意図的に「反ワクチン」を目的にしたコンテンツが多いのも、問題を複雑にしている。
守屋先生の「みんなのワクチンプラクティス」は日本における予防接種の「しくみ」とワクチンの臨床的なコンテンツを摺り合わせた、日本では希有なコンテンツである。例えば、同時接種についての「科学」と「しくみ」を擦り合わせ、それが科学的に妥当であり、しくみ的に可能なことを、(そして「臨床的に」必要なことを)きちんと説明している。守屋先生らしく「前のめり」なコンテンツではあるが、ワクチンの問題点や効果の制限(例えばニューモバックス)についても誠実に触れている。基本的に、どの領域においても、医学においては全肯定や全否定のコンテンツは信用しない方がよい。
ふだんワクチンを打っていない医療者はぜひ本DVDを見て、基本的、かつ包括的に学んでほしい。ワクチンについてわりと詳しい人も、よいレビューになるし、「意外に知らない」トピック、読んでなかった論文もポロポロ見つかるはずだ。なにより、明白なメッセージそのものが勉強になるし、その「伝え方」というメタな領域の勉強にもなる(白地に本人だけって見せ方もよいですね。TED以降、ビジースライドじゃないプレゼンが増えてよいことだと思います)。
ところで、本稿を書いている時に、厚労省は「キャッチアップ」について議論してるんかいな、とふと気がついて調べてみたら、している。だいぶ前進したなあ。でも、キャッチアップは決して「経過措置」ではない。「恒常的なしくみ」である。ナバエ君、そういうことなので、もう一押し宜しくお願いします。
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