これは思わぬ拾い物だった、、、て献本いただいておいて失礼な話だけど、本当にそう。
アメリカの内科研修でも精神科(というかメンタルヘルス)を学ぶ。実際、ぼくの外来にもメンタルプロブレムを持つ患者はたくさんおり、いろいろな治療も提供している。
でも、「内科医のための」教科書はどうもしっくり来ていなかった。なんというか、「最低ここだけ知っといてください」みたいなミニマムリクアイアメント「しか」書かれていないので、精神科の世界観みたいなのが全然感得できないのだ。アメリカのテキストはこういうのが多い。
かといって、オーセンティックな教科書はハードルが高くてチンプンカンプン。とくに、「森田療法」とか「CBT」みたいな各論になると、一種の学派的な全能感丸出しで、そこが少しうさん臭い。
本書はなんと2009年卒業のドクターがまとめた精神科の教科書だ。その世界観がトポロジカルに追体験できるので、ノヴィスにはとてもよい。発達障害とアスペルガーの位置関係とか、神経症とボーダーと精神病の位置関係とか。DSMを解説したり、くさしたりする本は多いが、「なぜDSMができたのか」とその立ち位置を教えてくれる本をぼくはあまり知らない。各薬物の使い分けの微妙な違いや、併用療法の意味(併用療法に至ってしまう言い訳?、、、)も説明されていて、分かりやすい。精神科は「学派」が多いのが特徴だが、あちこちの「学派」に目配せが効いていてそこもノヴィスには有難い。日本の場合、伝統的に精神科は医局と教授によってやってることがバラバラな感があり、教科書もタコツボ的な印象を受けていたが、こういう本を見ると本当に日本はポスト医局時代に入ろうとしてるって気がして嬉しいです(まあ、夜明け前の薄明かり(薄暗がり)状態ですけどね)。
ぼくは専門家じゃないから、内的な妥当性は分からないけど、とにかくアウトサイダーとしてとても納得、と腑に落ちる教科書であった。
これまで、精神科のテキストで「すっきり」したのは春日武彦先生のいくつかの著書。これまで悩んでいた自分には朗報であった。それは「悩みが解決した」からではない。「何だ、悩むしかないんだ」と背水の陣を取れたためである。本書にも、そういうすっきり感がある。
どうしてかというと、本書のもう一つの特徴でもあるが、「分からないところ」が明確に示されているからだ。理論もモデルも薬物も、分からないところは大きい。入門書は普通、「分かっているところ」しか出さないから、全能感は示されるけど、どうもムムムなところがある。本書はそういう意味ではとても誠実だ。これは、うちの回診みた人は分かりますね。多くの問いは、「それは岩田には分からない。分からないことだけは分かっている」的な煮え切らない回答になる。でも、突き詰めていくとそんなのばっかしですよね、普通。
癒し系の軽やかな文章でとても読みやすいが、結構毒も振りまいている。その毒も「そうだよね」の納得な感じ。刺されないでくださいね。
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