注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
手指消毒によってどの程度医療関連感染を減らすことができるのか
医療関連感染の発生率を減少させる手段として、医療従事者の手指の消毒が考えられる。2002年のCDCによるGuideline for Hand Hygiene in Health-Care Settingsの発行により、それまで以上に多くの現場でアルコール製剤による手指消毒が推進されるようになった。しかし医療従事者による手指衛生手順の遵守率は38.7%とそれほど高くない。遵守率を上げるために多くの研究が行われているが、遵守率の向上により医療関連感染はどの程度減らすことができるのだろうか。
PubMedのClinical Queriesで“hand hygiene healthcare-associated infection”をサーチタームにして検索したところ15のSystematic Reviewが得られた。そのうちTitleとAbstractから有用と考えられるものを1つ選択した。
選んだSystematic Reviewは2004年の5月から11月の間に検索した文献を集めて、手指衛生の遵守率と医療関連感染の割合の点から手指衛生用アルコール製剤の臨床的有効性を検討したレビューで、医療関連感染について検討された研究は27あり、18の研究ではアルコール製剤の介入を行わなかった。18のうち14の研究で院内感染が減少し、そのうち1つは対照試験で、統計学的に有意に30%減少した。5つの前向き一般試験では統計学的に有意に29-76%の院内感染の減少が見られた。9つの研究では介入の1つとしてアルコール製剤の導入を行った。このうち3つの研究は対照試験であったが、Modyらによる教育活動後にアルコール製剤を導入する対照試験では長期入院患者の感染率に差は見られなかった。6つの研究は一般試験でRaoらによる研究では相対的に医療関連感染が17.5%減ったが、統計学的に有意ではなかった。他にも3つの研究でアルコール製剤導入後に感染の減少が見られたが統計学的に有意ではなかった。別の1つは、CDCの手指衛生キャンペーンにより持続的改善が何年にもわたって継続した最初の報告であるPittetらによるジュネーブ大学病院で全病棟を対象に1994年12月から1997年12月まで行われた研究である。この研究ではアルコール手指消毒薬の供給・ポスター・教育・手指衛生観察調査とその結果のフィードバック等様々な形態で手指衛生促進戦略を行い、その介入前とその最中を半年に一度調査したところ、その遵守率は47.6%から66.2%にまで上がり(p<0.001)、院内感染は16.9%から9.9%に(p=0.04)、MRSAの伝播は10,000 Patient Daysにつき2.16エピソードから0.93エピソードまで各々減少した(p<0.001)。
このReviewではこの様に医療関連感染の減少を示唆する結果が多く見られたが、試験のデザイン・介入方法・結果の測定方法の違いが大きいために統計学的な分析は不可能と結論づけている。また、baselineの結果を測定する期間の短さ・フォローアップ期間の短さ・サンプルサイズの小ささが度々見られ、対照群の詳細が記載されていなかったり、統計学的に有意なのか検討していない研究が多かったようである。
以上より、手指衛生を促進すれば医療関連感染は減少すると考えられるが、どの程度減らすことができるかといった具体的な結果は、その研究方法の違いから一概には言えず「わからない」という結果になりそうである。方法論的な問題や倫理的な問題を解決することは難しいが、更なる研究が望まれる。
参考文献
・ CDC Guidelines for Hand Hygiene in Health-care Settings Published 2002
・ A. Stout, K. Ritchie, K. Macpherson. Clinical effectiveness of alcohol-based products in increasing hand hygiene compliance and reducing infection rates: a systematic review. J Hosp Infect. 2007 Aug;66(4):308-12. Epub 2007 Jul 25.
・ Pittet D, Hugonnet S, Harbarth S, et al. Effectiveness of a hospital-wide programme to improve compliance with hand hygiene. Infection Control Programme. Lancet 2000; 356:1307
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