注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
梅毒の届出基準とその問題点
§届出基準
スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の感染によって起こる梅毒は感染症法によって5類感染症に分類されており、全件報告対象となっているため、届出基準を満たす患者を発見したときは法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。梅毒の届出は早期顕症Ⅰ期梅毒、早期顕症Ⅱ期梅毒、晩期顕症梅毒、無症候性梅毒と先天梅毒の5つの病型に分類して行われる。
患者(確定例)として届出をしなければならないのは、梅毒の臨床症状が存在し、①発疹からの病原体検出あるいは②血清抗体がカルジオリピンを抗原とする検査ならびにT. pallidumを抗原とする検査の両方で陽性という結果によって、梅毒患者と診断した場合である。
臨床的特徴がなくても、上記の検査によってカルジオリピン抗原もしくはT.pallidum抗原を保有する患者で、陳旧性梅毒を除いた患者も無症候性病原体保因者として届出なければならない。この場合、カルジオリピンを抗原とする検査では16倍以上又はそれに相当する抗体価が必要となる。
また、臨床症状と上記の検査方法と材料により梅毒が原因で死亡したと判断される死体についても報告しなければならない。
先天性梅毒の場合は、ア.母体の血清抗体価に比して児の血清抗体価が著しく高い場合、イ.血清抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合、ウ.T.pallidumを抗原とするIgM抗体陽性、エ.早期先天梅毒の症状を呈する場合、オ.晩期先天梅毒の症状を呈する場合の5つの基準の内、いずれかを満たす場合、先天性梅毒と診断される。
参考:厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-11.html
§問題点
感染症法が施行された当初、陳旧性梅毒の報告に関して、届出基準が徹底されないままに無症候性梅毒として報告されているものが多かった。そこで、検査値基準の徹底をはかり、“カルジオリピンを抗原とする検査では16倍以上の抗体価”という一文が追加された。また2006年には従来の用手法に代わり自動測定法による報告が増え始めたため、“またそれに相当する”という文章が追加された。この自動測定法の結果の解釈が現在問題となっている。
用手法の結果は希釈終末点法による倍数表示によって示される。一方、自動測定法においては、抗体価を連続的数値で表示する。そのため、届出基準境界値における倍数表示での抗体価と自動測定法における表示数値の相対関係の正確さが重要になってくる。現在のガイドラインでは、STS抗体の自動測定法であるメディエースRPRの結果が16.0RU以上であれば、用手法の抗体価16倍以上と同等とされているが、同時にその相関性の信憑性は低いとも記述されており、疑問が残る。そこで用手法のRPRカードテストとメディエースRPRの結果の一致率を調べた。
RPRカードテストの抗体価が8未満であれば梅毒治癒済みと判断されるのだが、RPRカードテストの結果が8未満かつメディエースRPRの結果が10.0RU未満を示す人の割合は94.7%であった。しかし、メディエースRPRの結果が15.9RU未満かつRPRカードテスト抗体価が8未満となる割合は89.4%と低くなっていた。またRPRカードテストで16以上を示す人の割合はメディエースRPR10.0RU未満では5.3%であったが、15.9RU以下では10.6%であった。よって16RUを基準とした場合、10RUを基準とした時と比べて疑陽性と疑陰性が出る可能性が高いと言うことが明らかになった。以上のことから、“自動測定法の結果が10.0RU以上ならば用手法における抗体価16以上と同等”とガイドラインを変更した方がよいと思われる。
参考:IASR Vol.29 page246〜247: 2008年9月号
IASR Vol.23 page87〜88: 2002年4月号
日本性感染症学会誌 2009年第一号vol.20 page64~77
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