医事新報にも書評頼まれて書きましたが、ご許可いただいたのでこちらにも転載します。
かぜ診療マニュアル―かぜとかぜにみえる重症疾患の見わけ方
最近、感染症界の派閥化が起きているように感じる。保守か、革新か。米国式か、日本式か、はたまた欧州式か。
各「流派」により、感染症診療のあり方、スタイル、プリンシプルには違いが出る。例えば、かぜに抗菌薬を出すべきか、否か。「流派」によってアプローチは異なる。
本書は、実に誠実な本である。何に誠実か。かぜという病気に対して。そしてかぜ患者に対して。
本書はどの「流派」にも属さない。ひたすら誠実に、かぜという病気と正面から対峙し、かぜ患者の安寧のために全力を尽くす。だから、本書は抗菌薬を出すか出さないか、西洋薬か漢方薬か、CRPを使うか使わないか、といった「流派」的二元論に拘泥しない。代わりに、「そうあるべき条件」を模索する。患者の利益が最大化するよう、抗菌薬を使わない条件、使う条件、漢方薬を使う条件、CRPが役に立つ条件を模索し続ける。その答えは精緻なメタ分析かもしれない。何千年の歴史を持つ漢方薬かもしれぬ。意外や意外の「はちみつ」かもしれない。本書には保守も革新もない。
本書には、かぜ診療にまつわるあれやこれやの議論がほとんど全て網羅されている。読者は、一見簡単に扱えそうな、かぜ診療の多層性、複雑さを本書から汲み取ることができるはずだ。小児や妊婦には独特の配慮が必要なことも察することができるはずだ。
かぜをぞんざいに扱うことは簡単である。適当にあしらい、いつも同じ処方で患者を帰すことも可能である。しかし、そこには恐るべき地雷が隠れていることがある。何より、通り一遍でかぜを扱うのではなく、「あの」かぜと「この」かぜを峻別する作業は、外来診療に知的刺激を与え、我々の診療を生き生きとさせてくれる。
本書をかぜに遭遇する医療者すべてに強くお薦めする。ぜひ自分の派閥を忘れ、「流派」をいったん「かっこ」に入れて本書を読んでほしい。読者諸氏もぜひ、筆者らの誠実さに応えてほしい。
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