ARDSだけに特化したマニアック本。
昔だったらこの手の本はなんとか治療薬マンセー、で裏に薬の商品名がプリントしてあり、プロパーさんがただで配りまくる、、、的な本が多かったが、本書はそういう類いのものとは全然違う。非常にクールな本だ。日本でもようやくこういったクールな文体の書物が出てきたことをとても喜ばしく思う。最近、呼吸器、集中治療系では良書、よい雑誌が多いが、いかなる趨勢であろうか。日本にはICUでARDSをみる機会のある非専門家(内科、外科を問わず)がとても多いので、そういう素人(含む自分)には必携だ。
作りは非常にオーソドックスだ。歴史的経緯、疫学に始まり、病理所見、そして比較的新しいベルリンの診断基準と続いていく。しかし、間に間質性肺炎との見分け方など、臨床的なtipsはおおい。PaO2が改善したとき、FiO2とPEEPのどちらを下げるのがよいか、といったコントラバーシーも取り上げており、視点はきわめて臨床的だ。
また、バイオマーカーの学問的な知見と、臨床的な有用性のギャップをきちんと記載するなど(CRPは高い方が予後がむしろよい、、、)、クールな視点は本書を貫いている。その後の治療原則の大部分に人工呼吸器や患者の体位に費やしており、なんとか治療薬、かんとか治療薬に走っていないところも、従来との違いを示している。
ぼくが知る限り、日本の専門書で初めてエラスポールのメタ分析も引用してもらって、ほっ、である(海外では引用されているが、日本では学会専門誌の特集などでも完全に黙殺、であった)。「ステロイドパルス療法とはいったい何者か?」といったコラムも面白い。
本書は、田中竜馬先生のコラムで終わる。アメリカではICU患者の早期離床が本格的に始まっており、人工呼吸器をつけたままで患者が歩いてリハを受けている(ネットでも動画がアップされているのを見たことがある)。こうしたことは日本のICUでは「非常識」なのだが、問題は、なぜそれが「非常識」なのか、である。
「原因の1つとして、「うちの患者は重症だから」「うちのICUは人が足りないから」などと自らの意識に壁をつくってしまって、試す前からできないと思い込んでいることがよくある。しかし、どこのICUでも患者は重症で、人手が有り余っていることはまずない。そのような困難があっても、他職種の協力と創意工夫によって、急性期のみならず、長期的な視点からも患者にとって最前の治療を提供することが、これからの集中治療に求められていると私は考える」216ページ
この文章の頭三分の一は、人はいつまでも若々しく、猛々しくあれることを示している。中三分の一は、人は知性を活かし、常識を疑い、クール・ヘッドをもてることを示している。そして、おしりの三分の一は、どんな若者もいつかは成熟した大人になれることを示している。我が身も振り返って、ぼくはそう思うのである。
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