クロノバクター・サカザキ
<概要>
クロノバクター・サカザキCronobacter sakazakiiはヒト・動物の腸管内および自然環境下に存在しているグラム陰性桿菌である。乳児用粉末乳(Powdered infant formula, 以下PIFと略す)、スキムミルク、ハーブティなどの乾燥食品内から発見される。
<感染リスクと起こしうる疾患>
生後28日未満の新生児、乳幼児(特に免疫不全や未熟児、超低出生体重児など)で敗血症、壊死性腸炎、脳膿瘍を発症し、重症では髄膜炎を発症することもある。クロノバクター髄膜炎による致死率は40%である。死亡に至らなかった場合でも神経障害など重篤な合併症が生じるとされている。成人の場合は不顕性感染が多く、日和見感染の原因となる。免疫不全者や高齢者においては血流感染を引き起こす。
<発症頻度>
発症はまれである。日本では2007年多発性脳膿瘍、2009年に敗血症がいずれも超低体重出生児で1例ずつ報告されている。米国では年間4~6例の乳幼児クロノバクター感染が報告される。2002年に施行された米国のFoodNet調査では、1歳未満の乳幼児のクロノバクター感染症は10万人に1人の頻度だった。
<感染経路>
主にPIFや粉末状ベビーフードからの感染である。ヒトからヒトへの感染が起こりうるかについては、まだ分かっていない。
<国内の汚染実態>
2005年のPIF汚染調査では毎年2~4%のPIFからクロノバクターが検出された。2006年、2007年の汚染菌数はPIF333g中に1個であった。
<リスク評価と対策>
推定汚染菌量は0.36~66MPN/100 gと極めて少量であり、感染リスクは低い。しかし、調整後に放置すると急速に菌が増殖する。母乳保育された乳幼児については感染例の報告はなく、50~80%のPIFが感染源となっている。クロノバクターは70℃以上の温度で速やかに不活化するため、PIFを使用する場合に熱湯で溶かすこと、調整後の加熱などの処置により汚染のリスクを除去することが奨励される。母乳保育を選択しない場合には、可能な限り殺菌済みの乳幼児ミルクを使用することが推奨されている。また、WHOでは乳幼児は生後6か月までは完全な母乳保育を実施すべきであり、2歳までは補完食を与えながら母乳保育を継続すべきとしている。
<診断・治療>
クロノバクター敗血症を疑った場合には、血液培養、尿培養、脳脊髄液培養を行い、起炎菌の同定を行う。実際には培養の結果を待たずに、まず敗血症に対するエンピリック治療を行う。
参考文献:1)厚生労働省:育児用調整粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A
2)CDC:Expanded
Information-Cronobacter
3)平成21年度食品安全確保総合調査「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」
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