注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
筋肉痛をきたす感染症 感染症によって筋肉痛が生じている場合、1筋肉そのものに対して感染しているのか、2筋肉が間接的に炎症を起 こしているのかを考える。1の場合、感染の経路としては穿通性の外傷、近接した組織(皮膚など)からの感染の波及、 血行性に伝播などが考えられ、GPC を始めとする細菌が感染を起こしうる。そのため、化膿性の限局した病変を呈す ることが多い。一方で2の場合、種々のウイルスなどを始めとした、全身症状をきたすような微生物による疾患に伴 う炎症反応等の一症状として筋肉痛をきたしていると考えられる。そのため、非化膿性の全身性の筋肉痛を呈するこ とが多い。以下の表に、筋肉痛をきたす主な感染症をヒストリー・身体所見・検査などの点からまとめる。
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ヒストリー |
身体所見 |
検査 |
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診断 (主たる原因微生物) |
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化 膿 性 ・ 限 局 性 |
穿通性外傷、先行感染、薬物乱用、 免疫不全(HIV、DM など) |
発熱、局所的な筋痛(特に下 肢)、筋固縮、腫脹、圧痛 |
CT・MRI で膿瘍の確認、 ドレナージ検体の染色・培養 |
化膿性筋炎 (S.aureus) |
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重度の穿通性外傷、創傷部への土壌 の侵入、消化管穿孔や外科手術後 |
創部の激痛・腫脹・捻髪音・ 出血性の水疱・青銅色の皮 膚・腐敗臭、発熱、低血圧 |
Ht 低下、 エコーで後方陰影を欠く高エコー像、 CT でガス像 |
ガス壊疽 (C.perfringens) |
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先行感染(腹腔内・骨盤内)、全身倦 怠感、体重減少、悪心 |
発熱、下腹部・臀部・大腿 部の疼痛 |
CT、MRI で腸腰筋の拡張、周囲の液 体貯留 |
腸腰筋膿瘍 (Mycobacterium tuberculosis、S.aureus) |
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切創、虫刺症、注射や軽微な外傷、 熱傷、急速に進展する病変 |
激痛を伴う発赤腫脹、ショ ック症状 |
病理組織検査で、高度の白血球浸潤、 筋膜と周囲組織の壊死、微小血管血栓 MRI・CT でガス貯留の有無 |
壊死性筋膜炎 (S. pyogenes, C.perfringens) |
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非 化 膿 性 ・ 全 身 性 |
突然発症の発熱・咳嗽、悪寒、流行 期であること、ワクチン接種歴、下 肢痛のため歩行困難、インフルエン ザ接触歴 |
高熱、筋肉痛(特に下肢)、 咽頭後壁のリンパ濾胞 |
迅速診断キット |
インフルエンザ |
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歯科処置(抜歯)、血管カテーテル検 査、弁疾患の有無 持続する微熱、体重減少 |
発熱、新たな心雑音、筋肉 痛、点状出血(眼底、眼瞼結 膜など)、爪下線状出血、 Osler 結節、Janeway 病変 |
血液培養(特に GPC 陽性の場合)、 TTE、TEE で vegetation を確認 |
感染性心内膜炎
(Streptococcus 属、 |
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山歩きをしたか、流行地でのダニへ の暴露、易疲労感 |
遊走性紅斑、発熱、筋肉痛、 不整脈 |
関節液の DNA-PCR、 血清検査 |
ライム病 (B.burgdorferi) |
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海外渡航歴、蚊に刺されたか |
発熱、頭痛、後眼窩痛、重 度の筋肉痛、解熱時期の斑 状丘疹 |
白血球減少・血小板減少・血清アミノ
トランスフェラーゼ値上昇、 |
デング熱 (Dengue virus) |
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生肉の摂取(特に豚)の有無、腹痛、 悪心、発熱 |
下痢、筋肉痛、筋肉の浮腫 及び脱力等の症状(外眼 筋・下顎・頸部・腰部・横 隔膜など)、結膜下・網膜の 出血、眼瞼周囲の浮腫 |
好酸球増加、 筋酵素の血中濃度上昇、 感染筋肉の生検、繊毛虫類の検出 (腱付着部が高率) |
Trichinellosis |
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性交渉歴、MSM かどうか |
発熱、咽頭炎、リンパ節腫 脹、筋肉痛、種々の皮疹 |
EIA で HIV 特異抗体と p24 抗原の検 出、HIV 感染が疑われる場合には ウエスタンブロット |
HIV |
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以上の様に、筋肉痛に関して大きく局所性・全身性という分類はできるものの、非特異的な所見であるため診断に強 く寄与することは少なく、詳細な病歴聴取が筋肉痛をきたす感染症の診断に大きく貢献すると考える。 <参考文献> Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed. /Harison’s principles of internal medicine 18th edition/Up To Date: ” Approach to the patient with myalgia”/Up to Date:” Viral myositis”/CLINICAL MYCROBIOLOGY REVIEWS, July 208, p.473-494 |
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