注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ニューモシスチス肺炎の診断について
ニューモシスチス肺炎(PCP)は、易感染状態の患者がPCPに矛盾しない臨床徴候(呼吸器症状・発熱)や胸部X線異常所見(肺門部周囲から両側性に広がる網状もしくは腺状の浸潤影)を呈する場合に必ず鑑別に挙げるべき疾患である。PCPの臨床徴候は非特異的であるため、診断には、気道分泌物を採取し病理組織学的染色によって病原体の検出を行うことがスタンダードである。
胸部X線所見が正常であってもニューモシスチス感染初期である可能性が残るため、さらに胸部HRCTや呼吸機能検査を積極的に追加して行い、これらの検査でPCPの可能性が低い患者(HRCTですりガラス陰影(GGO)なし、またはDLco>75%)に対しては経過観察とし、PCPに特異的な治療は行わないものとする。HRCTでGGOを認める場合やDLco<75%の場合は病原体検出目的に気道分泌物採取に進む。
PCP疑いの患者において、肺の病態を正確に反映する検体を適切に採取することは診断を左右する重要なステップである。一般に、HIV感染者の方が非HIV感染者に比べて臓器内菌量が多いことから診断されやすい。高張食塩水の吸引による誘発喀痰は、簡単かつ非侵襲的な検査であり、最初に選択される手法である。誘発喀痰染色はHIV感染患者で特異度95%以上と良好であるが、感度は56%と低く、特にPCPを予防されている状態ではさらに感度が低下する。非HIV感染者では感度がより低いとされている。誘発喀痰で病原体が同定されなかった場合、気管支内視鏡によるBALを検討する。BALの感度はHIV感染患者でPCP予防されていない場合95%以上である。一方で非HIV感染者でのBALの感度は38-53%と低く、BAL陰性でもPCP除外は困難である。
侵襲度が最も高い経気管支生検(TBLB)および開胸肺検査は、BALによって診断が得られない場合にのみ検討される。経気管支生検ではBAL検体では得られない情報まで得られるが、気胸や出血の合併症を高率で伴うためPCPの診断に必須ではない。また開胸肺検査は、PCPを併発する他感染・病態を評価したい時や肺のカポジサルコーマを診断したい時に、気管支鏡で診断には至らなかった場合の手助けとなる。最近では微小開胸術や胸腔鏡下生検がよりよく用いられており、開胸肺検査の頻度は減少している。
トルイジンブルー0染色、メテナミン銀染色など従来から行われている細胞壁染色法は、Pneumocystis嚢子の細胞壁のみを選択的に染色し、嚢胞体を見つけることができる。Wright-Giemsa染色などは栄養体を染色可能であるが嚢胞体は染色されない。また、モノクローナル抗体を用いた免疫蛍光染色は、栄養体・嚢子ともに染色可能で、組織染色に比べて感度・特異度が共に優れており最もよく使われる方法である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による核酸増幅検査は、ニューモシスチスの定着と感染とを鑑別することができないため、PCR陽性=PCPの診断とはいえない。HIV患者において96時間以内に採取されたBALの検体で、PCRの感度は72-100%,特異度は86-100%と報告されている。非HIV患者での感度87.2,特異度92.2%、陽性的中率51.5%,陰性的中率98.7%とされており、陰性的中率の高さから、PCRはHIV,非HIV患者ともにPCPの除外診断に有用である。
【参考文献】
Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious Diseases(seventh edition)
Harrison’s Principles of intenal medicine
http://www.theidaten.jp/journal cont/20100505J-19-2.htm
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