注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
A型肝炎ウィルスワクチンの効果について
国際的に多く用いられており、エビデンスの確率しているHAVワクチンにはHavrixとVaqtaがあるが、それらは基本的に2回接種することがスケジュールされている。1回接種後の抗体濃度は免疫グロブリンを接種した群よりも高かったが、2回目接種後の最終抗体濃度はA型肝炎罹患後における血中抗体濃度よりも低かった。つまりワクチンを打てば免疫グロブリンを投与するよりも強い効果が得られるが、打ったからといって罹患後の群と同程度の抗体濃度を得られるわけではない。ワクチンを打つと体内で抗体が産生されるが、その血中抗体濃度は、Havrixは酵素イムノアッセイによって、またVaqtaはラジオイムノアッセイにより測定される。抗原性の臨床研究結果を考えるに当たり、どの位の血中濃度があればHAVの感染を防ぐことができるかが気になるところであるが、現在これ位の血中抗体濃度であれば罹患しないという絶対的な下限というものは決まっていない。しかしHAV免疫グロブリン接種後1~2ヶ月で10~20mIU/mL程度の血中抗体濃度が獲得でき、その抗体濃度でHAV感染を防ぐことができることはすでに知られている上、in vitroのスタディでは20mIU/mL以下の濃度でも抗原を中和できることが証明されている。よってHavrixにおける酵素イムノアッセイは20または33mIU/mLが検出濃度の下限であり、Vaqtaにおけるラジオイムノアッセイは10mIU/mLが下限であるため、一般的には特定のアッセイで測られる下限がプロテクトレベルであると考えられている。アッセイにより抗体が検出されれば血清転換(seroconvert:プロテクトレベルの血中抗体濃度が検出)されたといえる。Havrixの1回接種後15日後の血清転換率は80~98%で、1ヶ月後に96%になり6ヶ月以上持続する。6ヶ月後の追加接種により、7ヶ月めには100%が血清転換されている。Vaqtaの1回接種後2週間における血清転換率は69.2%、1ヶ月後における血清転換率は95%、2回接種後1ヶ月後の血清転換率は99.9%であった。日本においてはこれら二つのワクチンは承認されておらず、代わりにエイムゲンというワクチンが承認を受けている。エイムゲン接種後の血清転換率は、1回接種後4週間で99.3%であり、0週と2週の2回接種の場合、初回接種後6週間で血清転換率は100%に達し、以後18ヶ月後まで100%を示し、5年後でも94.4%を示している。なお3回接種では、初回接種後8週間から5年後まで100%を示すことが分かっている。
次にワクチンの有効率(efficacy)について述べる。ワクチンの有効率とは、たとえば90%のefficacyであれば、非接種のうち90%が、もしワクチンを打っていればその病気を発症することはなかったという意味である。あるスタディによると1037人のA型肝炎罹患率の高いもしくは定期的にアウトブレイクのおこる地域に住むseronegative(seroconvertされていない)な2〜16歳に対して1回のVaqta接種もしくはプラセボの接種を行ったところ、ワクチン接種後17日間において、Vaqtaを打ったグループではA型肝炎を発症したものはいなかったが、プラセボを打ったグループでは34例のA型肝炎発症が観察された。これより有効率は100%であると推定された。またあるスタディでは約4万人の1〜16歳のタイ人の子供についてHavrixを2回接種して2回目の接種後1ヶ月での有効率は94%であった。よってA型肝炎のハイリスク地域の子供に対する大規模A型肝炎ウィルスワクチン接種はその地域の子供たちの罹患率を急速に下降させることがわかった。またVaqta長期フォローアップのコホート研究においては、VaqtaがテストされたMonroe Communityにて試験後9年間A型肝炎の発症を認めなかった。また別のスタディでは数学的モデルに照らし合わすと、抗体による保護効果は成人であれば25年かそれ以上、子供であれば14~20年間続くことが算定されている。
日本で唯一承認されているエイムゲンは現在ほかのHAVワクチンと混合で接種することはできないが、2012年に開始された東京医科大学のスタディによって2回のエイムゲン接種後3回目にHavrixを打つことに対して有効性が検証されている。もしもこのスタディでよい結果が出れば、日本で渡航前にエイムゲンを打った人が海外においてワクチンを追加接種することが可能になる。
(参考文献)①GlaxoSmithKlein, HAVRIX PRESCRIBING INFORMATION ②VACCINES 5th Edition P.191
③www.merck.com/product/usa/pi_circulars/v/vaqta/vaqta_pi.pdf ④日本臨床53巻増刊 分子肝炎ウィルス学(下)p.884-891(1995.10)
⑤臨床とウィルス25巻1号p.43-47(1997.03)
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