帯状疱疹は水痘罹患後に潜伏感染していた水痘帯状疱疹ウイルスが、加齢や疲労、ストレスなどの要因によって生じたウイルスに特異的免疫反応の低下を背景に、神経節内で再活性化することによって発症する疾患である。また、免疫不全患者、造血幹細胞移植患者は発症のリスクが高い。
・帯状疱疹の診断
① 帯状疱疹の診断は、まず臨床症状を観察する事が重要である。すなわち、ある神経支配領域に一致して分布する片側性の紅斑
と小水疱および疼痛が観察できれば、帯状疱疹と診断して治療を開始してよい。
② 小水疱の出現範囲が限定されている場合や、まだ小水疱が形成していない紅斑が帯状に分布している場合は、単純ヘルペス、接触性皮膚炎、虫刺傷などとの鑑別が必要。
→ 病変から検体を採取し、Tzanckスメア法、蛍光抗体法、PCRによってVZVの存在を証明する。
③ 皮膚病変はないが、疼痛の分布から帯状疱疹が疑われる場合、血液などの検体からPCRによってウイルスDNAを検出するとともに、皮膚病変が出現しないかを見極める必要がある。
‣Tzanckスメア法:多核巨細胞を証明することで診断する。感度は約60%と低い。
‣蛍光抗体法:抗VZV抗原に対するモノクローナル抗体を用いた検査で、HSV感染症との鑑別が可能。
‣PCR:皮膚組織や髄液、気管支洗浄液などの検体からVZV DNAを検出することによりVZVの感染を証明する。
ウイルス培養に比べて感度が高い。臨床的に帯状疱疹感染が疑われる患者に対して行なったところ、ウイルス培養が53%
であったのに対して、PCRの感度は92%だった。
・帯状疱疹の治療
帯状疱疹の治療は、急性神経炎の重症度や持続期間を短縮すること、皮膚の治癒を早め新たな皮膚病変を防ぐこと、PHNを防ぐことを目的に行なわれる。
治療には抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル(1回800mg、1日5回、7日間) 、バラシクロビル(1回1000mg、1日3回、7日間)、ファムシクロビル(1回500mg、1日3回、7日間)が用いられる。免疫不全患者もアシクロビルで治療する。皮膚症状と疼痛の改善に対しては効果は少ないが、内臓合併症の発生は減少する。投与量は10mg/kgを1日3回7日間投与する。抗ヘルペスウイルス薬はその作用機序がウイルスDNA合成阻害であるので、ウイルスDNA合成が盛んな発症初期に最も効果を発揮する。
・エビデンス
‣691人の患者を対象にしたplacebo-controlled試験においてアシクロビルは急性神経炎の出現が低下(HR 1.46 ; 95% CI 1.1-1.93)し、またPHNの出現も低下(HR 1.8 ; 95% CI 1.35-2.43)した。
‣1141人の患者を対象にした2重盲検ランダム化試験において、バラシクロビル(1回1000mg、1日3回、7日間と14日間)とアシクロビル(1回800mg、1日5回、7日間)を比較したところ、急性神経炎の消退するまでの中央値はバラシクロビル38日(7日間投与) と44日(14日間投与)に対して、アシクロビルは51日だった。また6ヵ月後に痛みの残っている患者の割合はバラシクロビル19%に対して、アシクロビル26%であった。皮膚病変に対する効果は差がなかった。
・帯状疱疹後神経痛(PHN)について
PHNは帯状疱疹に侵された皮膚分節が、皮疹が完全に治癒した後も痛みが持続するという病態で、皮疹が治癒してから1ヶ月以上持続する疼痛のことである。リスクファクターとしては高齢であることがあげられる。60~69歳のPHNの発症率は6.9%なのに対して、70歳以上の発症率は18.5%である。それ以外のリスクファクターとして免疫抑制患者、重症の皮疹を持つ患者があげられる。
・PHNの治療
PHNを完治させる治療は存在しないため、薬物治療を中心とした精神・心理学的療法や理学的療法を組み合わせた集学的治療が必要になる。PHNの薬物治療の第一選択として、三環系抗うつ薬、ガバペンチン、プレガバリン、オピオイド、リドカインパッチをある。(米国神経学会)
・エビデンス
‣58人のPHN患者を対象に行なわれたアミトリプチンとロラゼパムとプラセボを比較したランダム化二重盲検交叉試験において、アミトリプチンの痛みの軽減率が47%であったのに対して、ロラゼパムは15%、プラセボは17%であった。
【参考文献】 ・ハリソン内科学 第18版 p1463-66
・UpToDate ; Diagnosis of varicella-zoster virus infection , Treatment of herpes in the immunocompetent host
Postherpetic neuralgia
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。