前回は、喘息の話をしました。かつてもめていたステロイドか、テオフィリンか、の議論が終息し、メインの治療が吸入ステロイドになっていった話でした。
話をわかりやすくするために端折りましたが、喘息の治療薬は他にもたくさんあります。その中で、ベータ刺激薬という気管支拡張薬はとくに現場でよく使われています。吸入ステロイドが治療のメインと言いましたが、じつは軽症で症状が持続しない喘息の場合は、ステロイドよりもまず、このベータ刺激薬を先に使います(Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma. NIH Publication no. 08-4051, 2007.)。
で、普通のベータ刺激薬は持続時間が短いので、長く効くものが開発されました。それが、長時間作用型ベータ刺激薬です。英語で書くと、long acting beta agonist, 略してLABAと書き、ラバと読みます。
また、同様に抗コリン薬という薬も喘息に使われ、こいつも長く効くものが開発されました。long acting antimuscarinic agentと英語で書き、略してLAMAと書き、ラマと読みます。どうもこっちの略称はコジツケっぽい感じですが。このLAMAも難治性の喘息には効果が高いことが、最近の研究で分かっています(NEJM 2012; 367:1198-1207.)
ところが。喘息同様に、気管支が狭くなってしまう病気があります。高齢者に多いこの病気は肺気腫という名前で有名ですが、正式には慢性閉塞性肺疾患という長い漢字の病名です。
困難は分割せよとデカルトは言いました。長い漢字を見たら、逃げ出さずに分割です。要するに、
慢性(ゆっくり型)
の
閉塞性(気管支が狭くてつまる)
の
肺疾患(肺の病気のこと。疾患とは「しっかん」と読みますが、病気だとシロウトっぽいので、医者が玄人らしさを醸し出すために、こういう言葉を使います)。
ね、分割したら、どうということはないでしょう。
で、医者は玄人用語(専門用語ともよぶ)だけでなく、英語の略語が大好き。これもchronic obstructive pulmonary diseaseという英名を縮めてCOPDと呼びます。シーオーピーディーと素直に読んでください。年齢が上がると、ときにシーオーピーデーとなりますが。
COPDはほとんどがタバコが原因です。やっぱタバコの吸い過ぎは体によくありません。止めといたほうがよいのです。
さて、COPDも喘息同様、気管支が狭くなる病気だから、同じように治療できるじゃないか、と思うじゃないですか。確かに、両者の治療はけっこうかぶっています。LABAも使います。ステロイドも使います。ところが、COPDの患者さんにLAMA(ラマ)を使うと、なんと死亡率が高まってしまうことが最近の研究で分かりました(チオトロピウムソフトミスト製剤。スピリーバ・レスピマットなど Thorax 2013;68:48-56, BMJ 2011; 342:d3215)。まだ原因ははっきりしていませんが、LAMAが心臓に悪影響を与えている可能性が指摘されています。また、LABAのほうも、不整脈を増加させるリスクが指摘されています(山田充啓、一ノ瀬正和 COPD.Evidence Update 2013 南山堂 65-69)。
というわけで、LAMAは病気によってはよいことをし、違う病気だと悪いことをする可能性もあります。なかなか難しいところです。
とはいえ!
なにしろ、LABAにしてもLAMAにしても、気管支の方には薬効がはっきりしているので、この副作用をどう扱うべきなのか、いまだにもめています。こういう煮え切らない問題って医療の世界では多いんですね。
LAMAやLABAのように、薬というものは基本的に効能(薬の効果)と害(副作用)が混在しています。例外なく、混在しています。そこで、大事なのは患者です。どういう患者であれば、効能のほうが害に勝り、どういう患者だとそうでないのか。患者の個別性が重要になります。
しかし、現代医療の評価の仕方は「集団の評価」です。ぼくらの研究は、集団に対して薬を使い、あるいは使わず、その薬の評価をします。個別性が大事なはずの医療で、集団を使って研究をしなければならない。なかなか本質的なジレンマです。
本質的なジレンマであるがゆえに、この問題に簡単な解決策はありません。だから、マジメな医者は悩んでいます。「長生きする方法」なんて簡単に本のタイトルにしてはいけないのは、そのためなんですね。
話をわかりやすくするために端折りましたが、喘息の治療薬は他にもたくさんあります。その中で、ベータ刺激薬という気管支拡張薬はとくに現場でよく使われています。吸入ステロイドが治療のメインと言いましたが、じつは軽症で症状が持続しない喘息の場合は、ステロイドよりもまず、このベータ刺激薬を先に使います(Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma. NIH Publication no. 08-4051, 2007.)。
で、普通のベータ刺激薬は持続時間が短いので、長く効くものが開発されました。それが、長時間作用型ベータ刺激薬です。英語で書くと、long acting beta agonist, 略してLABAと書き、ラバと読みます。
また、同様に抗コリン薬という薬も喘息に使われ、こいつも長く効くものが開発されました。long acting antimuscarinic agentと英語で書き、略してLAMAと書き、ラマと読みます。どうもこっちの略称はコジツケっぽい感じですが。このLAMAも難治性の喘息には効果が高いことが、最近の研究で分かっています(NEJM 2012; 367:1198-1207.)
ところが。喘息同様に、気管支が狭くなってしまう病気があります。高齢者に多いこの病気は肺気腫という名前で有名ですが、正式には慢性閉塞性肺疾患という長い漢字の病名です。
困難は分割せよとデカルトは言いました。長い漢字を見たら、逃げ出さずに分割です。要するに、
慢性(ゆっくり型)
の
閉塞性(気管支が狭くてつまる)
の
肺疾患(肺の病気のこと。疾患とは「しっかん」と読みますが、病気だとシロウトっぽいので、医者が玄人らしさを醸し出すために、こういう言葉を使います)。
ね、分割したら、どうということはないでしょう。
で、医者は玄人用語(専門用語ともよぶ)だけでなく、英語の略語が大好き。これもchronic obstructive pulmonary diseaseという英名を縮めてCOPDと呼びます。シーオーピーディーと素直に読んでください。年齢が上がると、ときにシーオーピーデーとなりますが。
COPDはほとんどがタバコが原因です。やっぱタバコの吸い過ぎは体によくありません。止めといたほうがよいのです。
さて、COPDも喘息同様、気管支が狭くなる病気だから、同じように治療できるじゃないか、と思うじゃないですか。確かに、両者の治療はけっこうかぶっています。LABAも使います。ステロイドも使います。ところが、COPDの患者さんにLAMA(ラマ)を使うと、なんと死亡率が高まってしまうことが最近の研究で分かりました(チオトロピウムソフトミスト製剤。スピリーバ・レスピマットなど Thorax 2013;68:48-56, BMJ 2011; 342:d3215)。まだ原因ははっきりしていませんが、LAMAが心臓に悪影響を与えている可能性が指摘されています。また、LABAのほうも、不整脈を増加させるリスクが指摘されています(山田充啓、一ノ瀬正和 COPD.Evidence Update 2013 南山堂 65-69)。
というわけで、LAMAは病気によってはよいことをし、違う病気だと悪いことをする可能性もあります。なかなか難しいところです。
とはいえ!
なにしろ、LABAにしてもLAMAにしても、気管支の方には薬効がはっきりしているので、この副作用をどう扱うべきなのか、いまだにもめています。こういう煮え切らない問題って医療の世界では多いんですね。
LAMAやLABAのように、薬というものは基本的に効能(薬の効果)と害(副作用)が混在しています。例外なく、混在しています。そこで、大事なのは患者です。どういう患者であれば、効能のほうが害に勝り、どういう患者だとそうでないのか。患者の個別性が重要になります。
しかし、現代医療の評価の仕方は「集団の評価」です。ぼくらの研究は、集団に対して薬を使い、あるいは使わず、その薬の評価をします。個別性が大事なはずの医療で、集団を使って研究をしなければならない。なかなか本質的なジレンマです。
本質的なジレンマであるがゆえに、この問題に簡単な解決策はありません。だから、マジメな医者は悩んでいます。「長生きする方法」なんて簡単に本のタイトルにしてはいけないのは、そのためなんですね。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。